Episodes 3 「シン・幸福論」

 

 

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○はじめに

「幸せになりたい! どうすれば良いの!?」

 

人類普遍とも言えるこの大テーマに対して、答えを出すことは簡単でない。数々の哲学者・思想家がこの難問に挑んできたが、明確な解答が出ているわけではない。しかし科学は、いとも簡単にその正解を提示する。

 

「幸福になりたければ、幸福感を出す脳内物質を分泌すれば良い。」

 

幸福になるための方法は、究極的にはこの主張に行き着く。重要なのは、様々な幸福感をもたらす脳内物質が、「特定の行動によって分泌される」ようにシステム化されているということだ。端的に言えば、「幸福になりたいなら、幸福につながる脳内物質が出るような行動をするだけで良い」ということになろう。

 

そう言ってしまうと、「行動するだけではダメだろう。成功してこそ幸せになれる。成功者は幸せそうじゃないか!」という反論が聞こえてきそうだ。この主張は正しそうに見える。実際多くの人は、「成功という手段」で、「幸福という目的」を達成しようとする。しかし・・・である。実のところ、真実は次の通りなのだ。

 

「『成功すれば幸せになる』のではなく『幸せだから成功する』」

 

「幸福の周囲を(複数の)成功が回っている」という真実は、まさにコペルニクス的大転回である。しかしながら、幸福感が心身の状態に非常に強く影響することは、多くの人が実感していることでもあろう。幸福感があれば、良いコンディションで長期間のパフォーマンスが可能になる。したがって、必然的に成功する可能性もかなり高くなる。考えてみれば、「幸福感が成功に先行する」のは当然のことだ。実際に、幸福感をもたらす脳内物質には、パフォーマンスを大きく飛躍させる科学的効果があると、数多くの研究が示している。幸福を感じている人はそうでない人に比べて、生産性と成果は40%以上、創造性に関しては3倍以上も高いという。

 

したがって、本文章では、まず「○第一章 脳内物質への理解を深める」と題して、私たちに幸福感をもたらす脳内物質について理解を深めていく。この章では、幸福感をもたらす4つの脳内物質について説明し、その理論を示す。なぜ理論にまで話が及ぶかというと、納得感を伴ったより深い理解が、その脳内物質による幸福感をさらに上昇させるからだ。これを証明する研究データとして、例えば次のようなものがある。

 

■理論的・科学的な学びは、普通のカウンセリングに比べて、不安症や鬱症状を3倍も改善する。

■「プラシーボ(偽薬)効果」は、当該薬品の効果を60%も飛躍させる。

 

つまり、「より深く科学的に理解して納得する」「根拠をもって信じる」ことで、あらゆるメソッドの効果は、本当に何倍にもなるのだ。脳内物質への理解を深めるというこの章が、本文章の最重要要素と言えよう。

 

脳内物質への理解を深めた後は、次のような流れに沿って、「幸福感を大きくする」メソッドを追求していく。

 

○第二章 セロトニン的幸福感

○第三章 オキシトシン的幸福感

○第四章 ドーパミン的幸福感

○第五章 エンドルフィン的幸福感

○第六章 「感謝」で幸福感を大爆発させる

○第七章 「パラダイム・シフト」で、あらゆる感情を幸福感に変える

○第八章 「アウトプット」を積み重ね、幸福感を無限に大きくする

 

補足しておきたいのは、各章で述べられていることと逆の内容を仮定すれば、それは「シン・不幸論」そのものであるということだ。その場合、本文章は、不幸が大きくなるようなメソッドを説明する代物になるだろう。何もあなたに、そのような読み方をしてほしいわけではない。しかしながら、対比的に物事を見ることは、一方の情報に対してより理解を深めることにつながるし、思考・判断・表現もより磨かれる。したがって、場合によっては、対比的視点ももちながら、本文章を味わってもらえたらありがたい。

 

さて、皆さんの準備は万全だろうか。そろそろ、「シン・幸福論」について話を始めよう。

 

 

 

○目次

○はじめに

○第一章 脳内物質への理解を深める

○第二章 セロトニン的幸福感

○第三章 オキシトシン的幸福感

○第四章 ドーパミン的幸福感

○第五章 エンドルフィン的幸福感

○第六章 「感謝」で幸福感を大爆発させる

○第七章 「パラダイム・シフト」で、あらゆる感情を幸福感に変える

○第八章 「アウトプット」を積み重ね、幸福感を無限に大きくする

○おわりに

 

 

 

○第一章 脳内物質への理解を深める

この章では、私たち人間に幸福感をもたらす4つの脳内物質について説明する。「セロトニン」「オキシトシン」「ドーパミン」「エンドルフィン」だ。まず、簡単にそれぞれの幸福感について示しておこう。

 

■セロトニン→健康の幸福感

■オキシトシン→つながりの幸福感

■ドーパミン→快楽の幸福感

■エンドルフィン→恍惚感・多幸感

 

これは大まかな分類であるが、特筆すべきはこの4つのシステムの合理性だ。仮に「ヒト」を創造した創造主がいるとしよう。その創意工夫は、いくら賞賛しても賞賛し足りないほどのものである。このシステムによって、「弱い」存在であるヒトが、今日まで生き残れているからだ。ヒトは他の生物(特に哺乳類)と比べ、体格が貧弱であり身体能力も高くない。その低いスペックをカバーするのが、ヒトのもつ幸福感のシステムなのだ。

 

人類史を24時間で考えた場合、ツールやコンテンツが溢れるようになった現代は、もはや午後11時59分59秒時点のことである。生物の進化は、私たちの想像よりも、ずっと長い時間をかけて成し遂げられる。現代を生きる私たちは、あくまで「旧石器時代のマインドをもってコンクリート&情報のジャングルを生きている」ということを理解しよう。ヒトの身体や脳の構造自体は、旧石器時代から全く変わっていない。したがって、脳内物質の分泌条件も、旧石器時代から大きく変化はしていない。「人として」ではなく、「ヒトとして」理にかなう行動を追求するべきなのだ。今から脳内物質のシステムをそれぞれ見ていくが、この視点は念頭に置いていてほしい。

 

【セロトニン】

「セロトニン」は、「健康の幸福感」をもたらす脳内物質だ。心身の健康がなければ、まずその生命体が成立しない。健康が最優先事項であることは明らかであろう。実際にセロトニンが不足した場合、ヒトは心身の状態が極めて悪くなり、極端にキレやすくなったり、重度の鬱病を発症してしまったりするのだ。

 

もし、健康に幸福感が付与されていないとしたら、健康に誰も気を遣わなくなってしまう。次世代を担う子孫が増えることも決してないだろう。大きなモチベーションがあっても、パフォーマンスを発揮する機会が失われ、教育によって次世代がさらなる文明発展を成し遂げることもない。結果としてヒトの歴史は、かなり早い段階で途絶えていたはずだ。健康に幸福感が与えられたセロトニンのシステムは、種の生存・繁栄にとって最適解なのである。非常に驚くべきことに、「健康の実感が『普通』から『少し良い』に上がることでもたらされる幸福感上昇率は、収入が上がることによる幸福感上昇率の65倍に相当する」という、衝撃的なデータも存在する。

 

では、セロトニンはどのような場面で分泌されるのか。具体的には、以下の行動をした場合である。

 

■日光を浴びる。

■咀嚼する。

■リズム運動をする。

 

この分泌条件の理論について詳しく見ていこう。この3つの分泌条件は、健康の3大原則と見事なまでに合致していて、もはや怖いほどに合理的だ。健康の3大原則とは、言わずもがな「睡眠」「食事」「運動」だ。

 

ハンティングや採集がしやすい時間(朝)に、朝陽(日光)を浴びることで幸福感が上がるシステムがあれば、ヒトは自然と日中に行動するようになり、食事機会の確保につながる。しかもセロトニンは、「メラトニン」という睡眠を促す脳内物質の材料になり、夜に眠くなるように身体を促す。このため、朝陽をしっかりと浴びたヒトは、ハンティングや採集がしにくい時間(夜)に、自然と身体を休めるようになるのだ。また、咀嚼による幸福感上昇も、非常に理にかなっている。これにより、食物を摂取することを自然と意識するようになり、生命維持や成長に必要な栄養を吸収できるのだ。さらに、獲物を探し歩く際のリズム運動による幸福感が出ていれば、獲物獲得に費やす時間・機会が多くなり、生命維持の可能性はさらに高まるだろう。

 

以上のように、セロトニンはヒトの最優先事項である「健康」をもたらす脳内物質であり、その分泌条件は驚くほど理にかなっている。次の項から、セロトニン以外の脳内物質について詳しく見ていく。最後に、セロトニンについて重要なポイントを補足しておこう。それは、「セロトニンは、他の全ての脳内物質の指揮者である」ということだ。後述するが、幸福感をもたらす脳内物質の中には、過剰に分泌されると暴走してしまうものもある。セロトニンはそれらの脳内物質が適切に分泌されるように、バランス調整をする役割をもっているのだ。だから、セロトニンをしっかりと分泌し、心身の健康を維持しつつ幸福感を高めることが、他の脳内物質による幸福感を爆発的に高めることに直結する。このポイントを気に留めておいてほしい。

 

 

【オキシトシン】

「オキシトシン」は、「つながりの幸福感」をもたらす脳内物質だ。この幸福感システムが設定されているのは、ヒトのスペック不足を解消するためである。つまり、ヒトに「協力」を促したのだ。協力すると幸福感がもたらされるシステムで、ヒトは生活の質を飛躍的に向上させた。現代文明の発展と、予想もつかない未来への展望を思えば、つながりのパワーは、創造主でさえ予想できなかったほどに偉大だと言えるかもしれない。

 

実のところ、私たちの祖先であるホモ・サピエンスが生き残り、ここまで繁栄できた理由は、「つながり」だと多くの研究が示している。ヒト以外の生物も「群れ」を形成するが、ヒトは「群れ」のレベルをさらに向上させ、「分業」して生きるように進化した。「人類最大の発明は『都市』」だとする研究者も多い。裏を返せば、ヒトは「ワンオペ」で何かに取り組むようには設計されていない。

 

オキシトシンの分泌条件は、「つながりを感じられる行動」全般である。具体例を次に示そう。

 

■あいさつする。

■スキンシップする。

■親切にする・親切にされる。

■家族やパートナーと過ごす。

■友人と過ごす。

■ペットと過ごす。

■祈る。(祈ることで、人は誰かと協力している気分になる。)

 

他者とつながることで幸福感を得られるというオキシトシンの性質は、ヒトという「種の繁栄」に直結している。現代社会では当たり前のようで意識されにくいが、私たちの衣食住は必ず他者によって支えられており、他者とのつながりなしに生きていくことはできない。

 

ここで重要なのは、つながりの幸福感がヒトの文明発展に大きく貢献しているということだ。私たちが暮らす現在の環境は、長い時間をかけて築き上げられた。決して1世代で築かれたわけではない。必然的に、世代間のつながりが発生したということである。ここで、つながりによる幸福感が、その神髄を発揮する。つまり、他者の言葉や考えを「信頼」できるということだ。意外に思われるかもしれないが、ヒト以外の生物は、人間的な意味で他者を信頼することはない。「あの場所は危ない」「あの生物は危ない」「こうすればうまくいく」「これを参考にさらに工夫しよう」という知識・マインド・メソッドの伝承は、実はヒト固有の性質である。だから、ヒト以外の生物は、プログラムされた本能の範囲内でしか生きられない。

 

対してヒトは、他者を信頼して自分の行動を変え、より良いものにすることができる。あらゆる伝承は、他者への信頼、つながりの幸福感がなければ生まれない。「他者とつながる(他者を信じる)ことで幸福になる」というシステムによって、私たちは世代を越えて、集団を越えて、知識やマインドを共有し、メソッドをブラッシュアップさせ続けることができる。オキシトシンの幸福は、ヒトが繁栄し、文明の発展を成し遂げている直接的な理由なのだ。

 

オキシトシンは「種の繁栄」に大きく寄与するが、それぞれの個体についても恩恵をもたらす。実際に、以下のような研究データが存在するほどである。

 

■良好な人間関係によって、忍耐力が50%、幸福感が40%上昇する。

■良好な人間関係によって、生存率が50%上昇する。

■孤独感をもつ人は、良好な人間関係を築いている人に比べて、死亡リスクが2.5倍(心疾患のリスクが1.3倍、アルツハイマー型認知症のリスクが2.1倍、鬱病のリスクが2.7倍、自殺念慮を抱えるリスクが4倍になるという。)にもなる。

■オキシトシンの不足は、1日15本の喫煙と同程度、アルコール依存症の2倍、肥満や運動不足の3倍の死亡リスクを招いてしまう。

 

セロトニンの項で述べたが、ヒトにはそもそも、「健康」による幸福感が設定されている。オキシトシンがもたらす「つながり」による幸福感は、セロトニン的幸福感と相乗的に機能し、あまりに偉大な幸福感をヒトに授けるのだ。

 

 

【ドーパミン】

「ドーパミン」は、「快楽の幸福感」をもたらす脳内物質だ。セロトニンとオキシトシンはあまりに秀逸なシステムだが、このドーパミンのシステムには、「光」と「影」が存在する。この大きなポイントについては、この項の最後で扱うとしよう。

 

最初に、ドーパミンの分泌条件を見ていこう。

 

■快楽や報酬を得たり目標を達成したりする。(仲間の達成も含む。)

■「快楽や報酬を得たり目標を達成したりすること」を予測し、段階的に挑戦する。(仲間の挑戦も含む。)

■運動する。

 

ここで重要なのは、ドーパミンは単に大きな幸福感を得るだけでなく、幸福感に付随した「効果」をもつことだ。では、ドーパミンの効果を見てみよう。

 

■快楽に向けたモチベーションが上がる。

■集中力・記憶力などを筆頭に、あらゆるパフォーマンスが高まる。

  

ドーパミンは、「快楽(欲)」に関するほとんどの行動に対して分泌される。快楽が幸福感をもたらすように設計されるのは、生命体としては自然と言えるだろう。食事の際、性行為の際にドーパミンが大量に分泌されるのは、種の生存・繁栄のために合理的なシステムである。また、運動によって集中力・記憶力が高まることも合理的だ。ヒトとして見た場合、狩猟・採集などの瞬発的な運動を伴う際に、集中力や記憶力が高まるという効果は嬉しい。

 

システムが巧妙なのは、快楽や報酬の「予測」と、その実現に向けた「挑戦」に、より大きなドーパミンの幸福感が設定されたことだ。「何か有益な情報があるかも!」「これで幸せになれるかも!」「このスキルをさらに向上させよう!」という好奇心とチャレンジ精神に基づいた行動は、文明が発展する可能性を飛躍的に高める。私たち現代人も、旅行の計画を立てている時間、プレゼントを期待する時間、相手や社会のレスポンスを待つ時間にこそ幸福を感じる。これは、ドーパミンのシステムそのものだ。

 

ドーパミンのシステムを熟知した上で、目標達成のメリットを明確化し、その目標を細分化・具体化・数値化し、適切な報酬(褒美)と成長のフィードバック(記録)を積み重ねることで、ドーパミンによる幸福感を最大限に享受することができるだろう。

 

ドーパミンに関する重要な情報をつけ加えておこう。それは、ヒトの脳には「社会脳」という報酬系システムがあり、特に「誰かの役に立った(誰かを幸福にできた)」場合の快楽や報酬に対して、より多くのドーパミンが分泌されるように設計されているということだ。その快感は、食欲的快感・性欲的快感・金銭欲的快感を上回る場合もある。先に述べたオキシトシンが、ドーパミンとミックスされて機能するのは言うまでもない。社会脳というシステムは、脳内物質が相乗的に幸福感を高める典型例と言えるだろう。(親しい友人が幸せだと、自分の幸福感は15%アップする。驚くことに、友人の友人が幸せだと知った場合も、自分の幸福感が8%アップする。)素晴らしい幸福感は、周囲の全てを幸福にするのである。脳内物質のシステムは、呆れるほど工夫に満ちている。

 

しかしながら、先に述べたように、ドーパミンとの向き合い方には大きな注意点がある。それは、「ドーパミンの快楽・報酬への欲求には限度がない」ということだ。セロトニンとオキシトシンの幸福感には限度があるし、仮に溢れるように分泌されたとしても、ヒトとして適切な状態を保てる。前述したように、そもそもセロトニンは各脳内物質の指揮官の役割を担う。

 

もしかしたら、「ドーパミンは成長につながるから良いのでは?」と思うかもしれない。しかし、「簡単にドーパミンを出す方法があり過ぎる」現代社会では、ドーパミンはヒトという種において適切な分泌量を軽く越えてしまう。依存症において代表的なアルコールとギャンブルに加えて、ソーシャルネットワークなど、現代社会には、特にモチベーションや努力を必要とすることなく、ドーパミンを過剰分泌するツールやコンテンツが溢れている。このような対象に依存していくと、良い生活習慣も良い人間関係も、いとも簡単に崩壊してしまう。そうすると、セロトニンもオキシトシンも分泌が少なくなり、指揮官を失った脳は、ますますドーパミンの暴走を止められなくなるのだ。セロトニンが不足すれば睡眠を促すメラトニンも分泌されなくなり、睡眠の悪化は判断力の著しい低下を招く。最悪の場合、自身の欲望のために犯罪に手を染めるといった行動をしてしまう人も少なくない。

 

現代においてドーパミンが厄介となる原因はもう1つある。実は、オキシトシンの項で挙げた「協力」に関することである。オキシトシンによる「つながり」の幸福感設定の際に、「集団にとって害になるものは排除する」という裏設定がなされているのだ。ヒトは進化の過程で、他者の道徳的な悪さを罰することによりドーパミンが大量に分泌されるようになったのである。本来弱者であったヒトは、協力することで生き残るという見事な戦略を採用したが、一方で、裏切り者は徹底して排除する必要があったのだ。

 

現代社会においても、実のところ、いじめの始まりは「間違っている人を正す」という正義感である場合が多い。ヒトにとって「正義」は最大の娯楽なのだ。しかし、ヒトはグループになると道徳的・倫理的判断力が著しく低下してしまう。そうすると、グループ内で目立つ者へのオーバーサンクション(過剰制裁)が過激化・巧妙化し、ブレーキが効かなくなる。そもそもヒトは、自分が手を下すことなく他者が不幸になった場合に快楽を感じる「シャーデンフロイデ」という性質をもっていることも、重要な事実である。

 

では、これまで述べたようなドーパミンの暴走を防ぐにはどうすれば良いのか。そのための考え方を示そう。それは、快楽を「努力して得るもの」「努力なく得られるもの」に分けて考えることだ。努力やチャレンジを伴うものは、すぐに手に入るものではないし、何よりその成功は、健康(セロトニンによる幸福感)と、サポート(オキシトシンによる幸福感)によって成し遂げられる。もしチャレンジに失敗しても、セロトニンとオキシトシンがあなたをカバーしてくれる。

 

反対に、努力やチャレンジを伴わず、簡単にドーパミンを分泌できるものはどうだろう。例えばアルコールやギャンブル、ドラッグ、または陰湿ないじめについて考えてみれば、違いは明らかだ。そのようなドーパミンの幸福感を追い求めれば、セロトニンとオキシトシンはあなたから離れてしまう。セロトニンとオキシトシンを失えば、あなたの脳は暴走モードに入り、あなた自身も変わり果てた姿になってしまうだろう。実際、鬱病の対処にセロトニンの幸福感とオキシトシンの幸福感は用いられるが、ドーパミンの幸福感は決して用いられない。

 

「その快楽に努力は伴うのか?」という自分への質問を、大きな価値判断基準にしてもらいたい。ドーパミンの幸福感をセロトニン・オキシトシンとセットにできれば、ドーパミンの暴走を回避できるばかりか、幸福感を相乗的に高められる。そして、あくまでもドーパミンの幸福感は、セロトニンとオキシトシンの幸福感を前提に成り立つことも気に留めておこう。ドーパミンの暴走は人生の破滅につながる。セロトニンとオキシトシンこそが、あなたを救ってくれる最後の砦となるのだ。

 

 

【エンドルフィン】

「エンドルフィン」は、「恍惚感・多幸感」をもたらす脳内物質だ。その効果は、「脳内麻薬」とさえ呼ばれるほどである。エンドルフィンは報酬系に多く分布する。まずは、その効果について示しておこう。

 

■恍惚感(心の底からうっとりする感覚)を得る。

■多幸感(非常に大きな幸福感)を得る。

■鎮痛作用(モルヒネの6倍以上)を得る。

■ドーパミンの効果が10〜20倍以上にまで上昇する。

■「ととのう」「○○ズ・ハイ」「フロー」「ゾーン」という完全に没頭した状態に入り、パフォーマンスが爆発的に向上する。

 

聞くだけで絶大な効果をもつエンドルフィンだが、なぜエンドルフィンはそれほどまでの効果をもたらすのか。それは、エンドルフィンの分泌が、「生命の危機を乗り越えるため」の行動によってもたらされるからだ。いざという場合の緊急プログラムとして、エンドルフィンのシステムは設定されている。そのことを理解するために、エンドルフィンの分泌条件を見てみよう。

 

■身体に大きな負荷がかかる。(高負荷の運動をする。)

■感謝する。

 

大きな負担がかかった際にまず必要なのは、痛みに耐えるというプログラムである。モルヒネの6倍以上という驚異的な鎮痛作用は、痛みに耐えて生命を維持するためのものだ。ドーパミンの効果が飛躍するのは、生命体の危機を回避するためにパフォーマンスを急上昇させる必要があるからだ。これこそ「火事場の馬鹿力」の科学である。

 

重要なのは、驚くべき鎮痛作用とドーパミンの効果の驚異的飛躍をもって、身体に大きな負担がかかる局面を乗り越えるということは、生命体の本質的には、「生命の危機を乗り越えて生き伸びる」ことそのものであるということだ。このように考えれば、安心感と高揚感が溢れ、恍惚感や多幸感が出るのも当然と言えるだろう。絶叫マシーンやバンジージャンプ、スカイダイビングに病みつきになるファンが多いのも納得だ。ウェイトトレーニング、サウナ、激辛料理などがもたらす爽快感も、エンドルフィン的幸福感そのものである。なお、「感謝」については、単にエンドルフィン的幸福感に話が収まらないので、別に章を設けて説明しよう。

 

 

 この章で、4つの脳内物質について理解を深めてきた。次の章から、より具体的に、脳内物質の幸福感を得るためのメソッドを見ていこう。もちろん、これらのメソッドが、その脳内物質の分泌と1対1で対応しているわけではない。中心となる脳内物質を取り扱っているので、その点は注意をお願いしたい。

 

さて、冒頭に述べた通り、「より深く科学的に理解して納得する」「根拠をもって信じる」ことは、享受できる効果を何倍にもする。あなたは大いなる、強烈過ぎるアドバンテージを得ている。確信をもって、次章に進んでほしい。

 

 

 

○第二章 セロトニン的幸福感

セロトニンは「健康の幸福感」をもたらす。この章では、セロトニンによる幸福感を得るために効果的なメソッドについて紹介していこう。前述したように、セロトニンの幸福感は、健康の3大原則「睡眠」「食事」「運動」と合致している。その点を意識して読み進めてほしい。

 

【睡眠】

睡眠は、誰もが知るように、心身の疲労回復やパフォーマンスの向上といった効果をもたらす。睡眠の質が悪いと、疲労が回復せず、パフォーマンスも上がらない。実際、以下のように、筆舌に値するデータが多く存在する。

 

■睡眠時間が6時間未満の人は、7時間以上の睡眠時間を確保している人に比べて、高血圧症になる確率が2倍、糖尿病になる確率が3倍、心筋梗塞になる確率が3倍、脳卒中になる確率が4倍、がんになる確率が6倍になる。風邪になる確率も5倍になるという。また、鬱病に5.8倍も陥りやすくなり、4.3倍も自殺を選んでしまう可能性が高くなる。トータルで、「睡眠時間が6時間以下の人は、そうでない人に比べて、死亡率が5.6倍になる」と言える。

■6時間以下の睡眠を2週間以上続けると、脳の作業効率(特に集中力)は、徹夜明けと同程度(缶ビールを2本飲んだ状態)にまで下がる。

■睡眠障害が認められる人は、認められない人よりも、アルツハイマー型認知症の発症リスクが5倍も高くなる。

■睡眠5時間の人が、睡眠7時間以上の生活にシフトするだけで、ジョギング45分相当のカロリー消費が実現する。

 

さらに驚くべき事実を補足しておこう。ヒトは極度の睡眠不足によって、現状のパフォーマンスの悪さを把握することすらできなくなり、低レベルのパフォーマンスを自分のフルパワーだと勘違いしてしまうのだ。それほど、睡眠がもたらす影響は、あまりに大きいのである。

 

睡眠の効果は本当に偉大だ。11日間の睡眠断絶実験によると、睡眠不足が続いた場合、「理解力・分析力・運動能力の低下」「正気を失って目の焦点が定まらなくなる」「呂律が回らず言語不明瞭になる」「記憶が欠落して幻覚を見る」などの症状が出ることが判明した。しかしそれらの症状は、その後の15時間もの貪るような睡眠で完全にリカバリーされ、後遺症も残らなかったという。この実験は極端な例だが、睡眠が絶大な効果をもつことを如実に示す話でもある。

 

睡眠を充実させるメソッドについて述べていこう。前述の通り、セロトニンは睡眠を促すメラトニンの材料となる。したがって、まずは次の項から述べるように、適切な食事(咀嚼)と運動(リズム運動)を心がけよう。睡眠自体のことよりも、自然と眠くなるような生活習慣を確立していくことの方が重要だ。

 

その上で、逆に質の良い睡眠を妨害する要素について述べていこう。それは、就寝前に興奮を促す行動をしてしまうことだ。様々なツールでブルーライトを直視することは、特に最悪の行為である。睡眠で得られる成長ホルモンのうち、80%は睡眠初期に分泌されるが、この最悪の行為は、特に重要な睡眠初期の眠りを著しく悪化させる。また、(不安感を誘発する)ノルアドレナリンを脳内から一掃できるのも睡眠初期だけであることから、睡眠前のブルーライト直視により、不安感の解消チャンスも奪われてしまう。

 

したがって、就寝前はブルーライトに代表される興奮材料を回避し、ゆっくりと入浴し、暗く静かな状況で就寝を迎えることが、人生において本当に大切な要素なのだ。加えて言えば、それを毎日の習慣にする必要がある。週末に体内時計が狂ってしまえば、週の半分はパフォーマンスが悪くなってしまう。何かイベントを楽しむ場合も、睡眠に支障がない程度にする工夫が重要である。

 

昼寝の効果についても述べておこう。たった30分の昼寝で、脳の生産性は30%も回復するという。また、30分以内の昼寝の習慣がある人は、アルツハイマー型認知症の発症率が5分の1になるという研究結果もある。しかしながら、1時間以上の昼寝になると悪影響をもたらすという研究結果もあるので、あくまで昼寝は、「短時間で集中して」を心がけるのがベストと言えそうだ。

 

過激な表現だが、極度の睡眠不足や悪環境での睡眠習慣は、自分で自分を虐待しているようなものである。睡眠の充実は、人生の充実に直結する。前述の通り、睡眠自体より、質の良い睡眠を得るような生活習慣を意識していこう。セロトニン的幸福感を最大限に享受できるはずだ。

 

 

【食事】

食事は誰もが知るように、心身の成長と健康、幸福感の享受、パフォーマンスの向上といった効果をもたらす。実際、セロトニンに限らず、オキシトシン・ドーパミンなどの脳内物質の生成・分泌のためには、(食事からしか摂取できない)トリプトファンなどの栄養が欠かせない。反対に、不適切な食事を過剰摂取すると、健康を害する可能性が高いのは周知の事実だ。

 

摂取した食べ物は腸によって消化され、栄養が吸収される。腸は「第2の脳」と言われ、各臓器とお互いに影響を与え合っており、精神面にも影響することが知られているが、特に食事においては、腸の方が圧倒的に優秀だ。脳は原始的な(ドーパミン的な)刺激に驚くほど弱いため、そのシステムを巧みに悪用したドリンク&フードに飛びついてしまう。しかし腸は、本当にその食事が適切かどうかを知っている。「食べ物は脳をだますが腸はだまされない」のだ。

 

だが、行動の決定権をもたない腸は、悪質な食習慣にも耐え続けるしかない。まずは腸が優秀であることと、腸内環境を良くすることが幸福感につながることを、脳で(知識として)理解する必要がある。全身の免疫細胞の60%は腸に集中しており、セロトニンは90%が腸で生成されることも重要な知識である。過激な表現だが、アルコールや加工品、糖分の過剰摂取、極度の栄養不足などの悪質な習慣は、自分で自分を虐待しているようなものだ。

 

素晴らしい食品と位置づけられているものは多いが、食品ほど各専門家によって意見が分かれるファクターも珍しい。やはり、(複数の研究結果を統合し、より高い見地から「分析を分析」する)メタアナリシス的な知識を身につけ、様々な自然食品をバランス良く食べることが重要だ。嗜好品については、「プラスマイナス・プラス」の精神で楽しむべきだろう。

 

自分の摂取する食品には、どのような栄養素が含まれているのか、セロトニンの生成器官である腸にとって優しいものなのかに意識を向けてみよう。適切な食事を、しっかり咀嚼して摂取しよう。そのような食事の工夫によって、質の良い睡眠ももたらされ、セロトニン的幸福感を相乗的に得られるはずだ。

 

 

【運動(リズム運動)】

ヒトは運動することを前提に設計されている。「運動VS脳トレ」は運動の圧勝であり、歴史的な大革命、大発見、大作を残す人は必ず運動しているものだ。しかも運動の効果は、今この瞬間からもたらされる。この項では、セロトニン的幸福感につながる運動について述べていこう。

 

セロトニンの分泌を促すのは、ゆったりとしたリズム運動である。リズム運動がセロトニンを分泌させる理由はすでに述べたが、これは「ヒトとして」という視点で分析した際に、あまりに合理的なシステムである。

 

具体的には、ウォーキングや軽いエクササイズなどの習慣が、セロトニン的幸福感を得るためのメソッドになる。その際、姿勢を良くすることも意識してほしい。姿勢を良くすると、体内に取り込む酸素量が30%も多くなり、集中力や記憶力、行動意欲が高まる。また、セロトニンの分泌も促されるのだ。「個体発生は系統発生を繰り返す」という反復説が示すように、ヒトへの進化の過程では、姿勢が良くなると同時に脳の容量が増えたのである。私たちも姿勢を良くしてこそ、セロトニンが分泌されて健康になり、脳のパフォーマンスが最大化する傾向にあるのだ。

 

リズム運動が非常に優秀なのは、セロトニン分泌の条件「日光を浴びる」とミックスしやすいからだ。屋外でのウォーキングや軽めのエクササイズにより、セロトニン的幸福感を相乗的に享受できる。それにより、質の良い睡眠も得られる。これに加えて、前項で述べた食事にも気を配れば、セロトニン的幸福感は完璧だろう。また、1日15分程度の日光浴で、「(決断力や実行力の向上に寄与する)テストステロン」の分泌が20%高まり、必要なビタミンが合成されることも分かっている。リズム運動の習慣化と創意工夫の積み重ねは、「一石○鳥にでもなる」と言えそうだ。

 

 

【笑顔】

ここまで「睡眠」「食事」「運動(リズム運動)」という健康の3大要素を扱ってきた。次に、「笑顔」について述べておこう。実際、笑顔で分泌される脳内物質はセロトニンだけではない。幸福感をもたらす多くの脳内物質が相乗的に分泌される。しかしながら、笑顔に付加されている健康上の効果があまりに絶大であるという事実を踏まえ、ここではセロトニン的幸福感として言及したい。

 

顔には身体の他の部位の4倍もの筋肉があり、表情のバリエーションも多様である。実は笑顔という表情には、以下のような効果が付与されている。

 

■特にセロトニンが大量に分泌される。

■ナチュラルキラー細胞の働きが活性化され、腫瘍細胞やウイルス細胞を拒絶し、免疫力を大きく上げる。

■副交感神経が優位になり、リラックス効果を得られる。

■血流が良くなり、脳梗塞などの血管トラブルを予防する。

 

また、笑顔に関する次のようなデータや名言も存在する。

 

■アルバムで笑顔の人は、その後の幸福度が高い傾向にあり、人間関係も安定している可能性が高い。

■写真撮影で歯を見せて笑う習慣のある人は、写真撮影で無表情の人に比べて7年寿命が長い。

■全く笑わない人は、頻繁に笑う人に比べて、2倍も早く死亡するリスクがある。

■全く笑わない人は、頻繁に笑う人に比べて、4倍近く認知症になるリスクがある。

 

■子どもでないなら、どこで何が起こっても、できるだけ早く笑顔になるべきだ。

 

やはり、笑顔は健康に人生を送るために、非常に重要な要素だ。お金がかからず多くを生むし、一瞬のことなのに永遠に記憶に残る。買うこともせがむことも盗むこともできない。「幸福だから笑う」のではなく「笑うから幸福になる」ことは科学的に証明されている。「笑う門には福来たる」は、間違いなく正しいのだ。ちなみに、子どもは1日に平均400回微笑むが、大人は20回しか微笑まないという。大人こそ、意識的に笑顔を見せるように行動してみよう。

 

 

【瞑想】

瞑想をすることで、脳の「前頭前野」という部分が大幅に鍛えられる。瞑想で前頭前野を鍛錬するメリットは、深いリラックスによるセロトニン的幸福感の享受を筆頭に驚くほど多く、また1つ1つの効果も非常に高い。そのメリットを列挙してみよう。

 

■セロトニンが大量に分泌される。

■脳の疲労が軽減する。

■脳の生産性が向上する。

■(合理的)思考力が向上する。

■意志力が向上する。

■集中力が向上する。

■記憶力が向上する。

■免疫力が向上する。

■幸福感が上昇する。

■ストレス耐性が強化される。

■ポジティブ・シンキングが強化される。

■メンタルが安定する。

■自律神経が安定する。

■コミュニケーション能力の向上が高まる。

■ダイエット効果がもたらされる。

 

また、瞑想によって、デフォルト・モード・ネットワークという「創造性向上」に関係する神経活動も活性化することが知られている。自分自身の状態を客観的に分析して見通しをもてるので、瞑想習慣の確立は、自己成長・円滑な人間関係の形成に大きく寄与する。旧石器時代のヒトは現代人と大きく違って、ただ物思いにふけっている時間も長かっただろう。瞑想が、誰もが驚くほど絶大な効果をもっているのも、当然のことなのかもしれない。ちなみに瞑想は、自分の客観視に意識を集中するプロセスと言えるが、マインドフルネス、アファメーション、祈り、運動などと組み合わせることで、さらなる効果を生むという。

 

 

 

○第三章 オキシトシン的幸福感

オキシトシンは「つながりの幸福感」をもたらす。驚くほど長期かつ広域な研究によって、人間の幸福感や健康に直接的に関係するのは、「素晴らしい人間関係だけ」だと証明されている。それは、次のようなデータからも明らかである。

  

■社会的つながりがほとんどない人は、しっかりとした社会的つながりをもつ人に比べて、3倍も重症の鬱になる可能性がある。

■特に人間関係において、自分の気持ちを抑圧し過ぎる人は、疾患による死亡リスクが30%、がんになるリスクが70%も高くなる。

■心臓発作を起こした場合、その後半年で感情面のサポートを得られれば、生存率が3倍になる。

■特定のがんになった人が支援グループに参加すると、手術後の寿命が2倍になる。

 

他者との素晴らしい人間関係を構築できれば、オキシトシン的幸福感も圧倒的に大きくなるだろう。したがって、素晴らしい人間関係を構築し、円滑なコミュニケーションを実現するための理論・マインドセット・メソッドを、人生における最重要要素の1つと捉え、いくつかの項に分けて紹介しよう。

 

【良いコミュニケーションのための基本的なマインドセット・メソッド】

まずは、より良いコミュニケーションのための、基本的なマインドセットを見てみよう。重要なのは、次の通りだ。

 

■承認すること。

■与えること。

■相手の視点に立つこと。

 

まず、「承認すること」について見ていこう。「誰かに認められたい」という承認欲求は、ヒトの最大の欲求と言える。「1つの承認で3ヶ月生きられる」「優しい言葉1つで冬中暖かい」という名言もあるほどだ。だから、ポジティブな要素を見つけて承認することこそ、コミュニケーションにおける最強・最高のメソッドであり、他者から最大のパワーを引き出し、自分も大きな幸福感を得るプロセスでもある。

 

承認のメソッドについて具体的に見てみよう。承認する際には、「具体的に」「理由までつけて」「行動そのものを」「できれば存在そのものを」認める意識をもつと良い。承認された相手は、その内容と自分の行動を一致させようとするため、小さなことでも認められれば、行動の変容が発生する。心理学で言う「認知的不協和」とは、自分の考えと行動の矛盾に不快感を覚えることだが、人は自然と、認められる自分を維持するために行動を変化させ、矛盾による不快感を解消しようとするのだ。素晴らしい承認により、承認の言葉によってモチベーションが高まる「エンハンシング効果」に加え、他者からの期待を感じることでパフォーマンスが飛躍する「ピグマリオン効果」と、他者からの関心を感じることでパフォーマンスが飛躍する「ホーソン効果」が同時にもたらされ、そこに爆発的かけ合わせ効果が生まれる。細かなことに気を配り、ハイレベルの承認を意識しよう。

 

次に、「与えること」を見てみよう。人のタイプには「ギバー(与える人)」「テイカー(奪う人)」「マッチャー(バランスを取る人)」があり、最も成功しやすく、幸福感を得やすいのはギバーである。ビジネスパーソンを対象にした研究によると、ギバーはマッチャーより30%、テイカーより70%売上高が多いという。「マッチャーとテイカーがビジネスパーソンの70%を占めるにも関わらず、トップ販売員の半分はギバーである」という事実は非常に衝撃的だ。

 

ギブのメソッドを具体的に見ていこう。ギバーは成功しやすいと言われるが、与えるという行動に自己犠牲が伴うと本末転倒である。単なる自己犠牲ではなく、与えられる者と与える者の双方が利益を獲得できる場合(「WIN-WIN」)や、そこに新たな価値が創出される場合に、思い切って与えると良いはずだ。

 

最後に、「相手の視点に立つこと」について述べておきたい。具体的には、「相手の関心に関心をもつこと」「相手の大切なものを大切にすること」である。人は誰しも、「自分や自分のものを理解されたい(大切にされたい)」という根源的な性質をもつ。自分のことを理解されたい(大切にされたい)なら、まずは相手を理解する(大切にする)ように努めよう。「私ならこう思う」ではなく、「相手はこう思うのではないか」と相手を主体にすることが大切だ。相手の視点に立つことは、コミュニケーションの核心そのものである。重要なポイントは、「理解そのものよりも、相手(相手の関心)を理解しようと努力することこそが、最も大切である」ということだ。その姿勢こそ「共感」なのである。

 

相手の視点に立つための具体的なメソッドについて見てみよう。それは、「自分が話したいことを話す」のではなく、「聞き手が聞きたいことを話す」ことだったり、人が最も関心をもつのは自分の名前である(「ネーム・レター効果」)ことを踏まえて相手の名前を尊重することだったり、人が自分の苦労話を語りたいもの(自分が語りたい内容だからこそ、それを相手に質問する。)であることを踏まえて、苦労話を傾聴したりすることだ。ある程度、人の関心には傾向がある。今述べた要素は特に大事だと思っておいてほしい。

 

3つのポイントについて、「マインドセットとメソッドは分かったが、心からそれを実行できるのか?」と疑問をもつ人もいるだろう。しかし、過剰な心配は不要だ。最初は心がついていかなくて葛藤を覚えても、実行するにつれて、親身さが自然とにじみ出てくる。コミュニケーションにおける行動をコントロールして、意志を間接的にコントロールするのである。

 

承認し、与え、相手の視点に立つという3つのテーマを総合的に網羅する揺るぎなきマインドセットは、「いつでもどこでも、己の欲するところを人に施せ」という黄金律(数多くの哲学・心理学・宗教や思想で見出されている言明)であり、そのマインドセットを踏まえたメソッドである。より効果的に、より深いつながりを生み出すことで、偉大なるオキシトシンの効果を、最大限享受していこう。

 

 

【トラブルを避け、良いコミュニケーションを守る】

人間関係のトラブルは、オキシトシン的幸福感の最大の敵である。トラブルを避けられれば、それだけ幸福感のチャンスが増える。この考えに基づき、有効なマインドセット・メソッドについて見ていこう。

 

コミュニケーション上のトラブル回避に最も有効なのは、「VSの位置」に注目することだ。「自分VS相手」になってしまえば、それは真っ向勝負を意味する。例え議論で打ち負かしたとしても、その後の関係性が良くなることなどないだろう。10回のうち9回の議論は、「自分こそ正しい」と双方が確信して終わるのである。「『相手を論理的に叩き潰すことに全く価値はない』という論理」をまずは理解しよう。

 

「自分&相手VS何か」となるような創意工夫を解決のメソッドとすることで、コミュニケーションはかなり円滑になり、トラブルが減るばかりか生産性も高まる。「何か」に該当する要素は他者でも良いし、目標や課題であっても良いだろう。「人と戦うのではなく、課題と戦う」ように心がけるのだ。あくまで、「向き合う」のではなく、「隣で同じものを感じる」ことに徹しよう。

 

そうすることで、もしかしたら、敵だと思っていた相手との間に、予期せぬ爆発的な相乗効果が生まれ、問題を簡単に解決できるかもしれない。マインドセットが全く違う相手との協力・連携こそ、本当に偉大な効果を生む。意見そのものと人格は切り離して捉え、(もちろんできる範囲で)敵になりそうな相手にこそ、自分から積極的に関係性を築いてみよう。なぜそう言えるかというと、「最高の味方とは、最初は敵だったが次第に味方になってくれた人」だからだ。これは、「(自分が)次第に味方になってくれた人を大切に思う」という心理面、「(お互いに)マイナス印象を上書きするためにより努力する」という行動面、「(相手が)かつてアンチだった理由を熟知しており、だからこそ、むしろ説得力をもつ影響者になり得る」という論理面を考えれば、深く納得できるであろう。

 

また、別の面からトラブル回避のポイントを述べておこう。それは、「怒らない」ことだ。もっと具体的に言えば、「(直接的に)怒りを表現しない」ことである。つまり、大声で怒鳴りつけたり、過剰に威圧したりしないということだ。大声で怒鳴りつけるような怒りの表現は、数多くのデメリットを生む。以下に列挙してみよう。

 

■相手がいつまでも萎縮したり不信感をもったりしてしまい、パフォーマンスを下げてしまう。

■第三者も非常に気を遣ってしまい、パフォーマンスを下げてしまう。

■場面によって怒りの表現が違えば、対応の整合性(芯)が確保できず、相手や周囲からの大きな不信感が生まれる。

■冷静な判断力を欠くトラブルメーカーと見なされ、本当に重要な事項にかかわらせてもらえなくなる。

■前述のようなデメリットのリカバリーに、超膨大な時間と労力がかかる。

 

少し怒るのを我慢するだけで、今挙げたデメリットは回避できるし、時間と労力を取り戻せる。それでも、あなたは怒り続けるだろうか。キレ続けるだろうか。

 

VSの位置」への着目と、「怒らない」意識で、あなたの人生におけるトラブルは、誇張なしに90%減少するだろう。可能な限りトラブルを避けつつ、チャンスがあれば相乗効果の発揮までも目指すことで、より素晴らしいコミュニケーションを実現し、つながりに磨きをかけたいものだ。

 

 

【アドバイスで、より良いコミュニケーションを生む】

オキシトシンが「親切にする・親切にされる」という行動によって多く分泌されることを述べたが、ここで扱うアドバイスという行為は、非常に有効なコミュニケーション・メソッドである。アドバイスをもらうと相手が好意をもってくれるし、アドバイスをあげると自分のモチベーションや行動力がアップする。顧客にアドバイスをもらいながら交渉を進めた場合、成約率が5倍になったという、信じられないようなデータも存在する。

 

アドバイスをもらう際は、単に「助けてください」と表現するより、「手伝ってください」と表現する方が良いだろう。そうすれば、丸投げではなく、「一緒に頑張る」というニュアンスが感じられ、アドバイスをする側のモチベーションやパフォーマンスも上がるはずだ。ちなみにビジネス現場において、「お手伝いさせてください。」という言葉を使った場合に、顧客の評価は80%以上、商談の生産性は70%以上高まるという。

 

アドバイスをする立場にある人も多いだろう。ここで重要なのは、「叱るなら行為」「褒めるなら人格」という原則である。人格に言及された場合、人はその内容を、アイデンティティとして行動に取り込みたくなる(取り込んでしまう)のだ。だから、特に強化したい長所については、「○○できるなんて○○だね!」と人格を褒めてあげるのがベターである。逆に叱る際は、相手の存在を一方的に否定せず、あくまで「私はこう思う」という「アイ・メッセージ」を駆使すれば良い。あなたのアドバイスが、相手にとって、本当に意味のある言葉として輝くはずだ。

 

 

【リーダーシップを発揮し、素晴らしいコミュニケーションの輪を広げる】

リーダーシップの発揮は、オキシトシン的幸福感を得るという意味でも、相手やチーム・コミュニティにオキシトシン的幸福感を授けるという意味でも非常に重要だ。ポイントとなるのは、役職としてのリーダーではなくても、程度や規模の違いはあれ、「誰でも」「いつでも」リーダーになる可能性があるということだ。

 

リーダーになった場合、それは当然大きな責任を伴う。しかしながら、リーダーになることでオキシトシン的幸福感の影響力が段違いに広がるのも事実だ。周囲を幸せにすることは、より自分が幸せになることにもつながる。ここで、素晴らしいリーダーシップを目指してマインドセットとメソッドを見ていこう。

 

いかなる文化圏やコミュニティにおいても、リーダーの資質として人々が真っ先に挙げるのは「誠実さ」で、その回答数は2位の「コミュニケーション能力」の2倍以上である。失敗するリーダーの90%は、人格に問題があるという。その誠実さの要素として最も大きなものは、「嘘をつかない」ことだ。1つの小さな嘘をつくと、その嘘を守るために、さらなる嘘をつかざるを得ない。結果として、自分の行動は嘘だらけになってしまい、チームは崩壊してしまう。これでは、リーダー自身のためにもならない。加えて言えば、自分自身が本当にやりたいことを我慢して、他者を過剰に優先し続けるのも、(自分に対する)嘘と言えるだろう。それは、自分に対して本当に失礼だ。自分に対する大嘘つきである。リーダーこそ、他人を慮りながらも、自分の幸福感に対して情熱を傾けるべきだと言えよう。

 

自分自身が幸福を追求することによって波及する影響力(影響する人数)は、少なく見積もって1000人であるという。「ミラー・ニューロン」という私たちが有するシステムによって、幸福感も伝染していく。もしリーダーの立場であれば、その効果はさらに何倍にもなる。リーダーシップを発揮する立場にある人こそ、倫理観を強くもち、自分にも他者にも誠実な態度で、幸福を追求すべきなのだ。その姿を見せることこそ、真のリーダーシップなのではないだろうか。

 

最後に、リーダーシップに関するいくつかの言葉を紹介して、この項を閉じることにする。

 

■相手に成長してほしかったら、まず自分が学べ。成長しろ。可能性を広げろ。語るだけではなく、誰よりも行動しろ。

■真のリーダーシップとは、従わない自由があるにも関わらず、人々がついてくることだ。

■「何を言うか」より「何をするか」の方が大きなインパクトをもつ。

■成功したら窓の外を眺め、失敗したら鏡を見つめろ。

■真に負けるとは、負けて仲間のせいすることだ。真に勝つとは、勝って仲間を賞賛することだ。

■最高の人材は最大のチャンスにチャレンジさせろ。最大のトラブル処理などさせるな。

■あなたの組織が、あなた(リーダー)なしに偉大さを維持できないなら、あなたの組織は、まだ真に偉大ではないのだ。

■良いリーダーは、成功に貢献した人を褒める。偉大なリーダーは加えて、素晴らしい「褒め手」を育成する。

 

 

【友人に関するマインドセット】

「隣に友人がいれば、その友人が違う方を向いていて無言であったとしても、これから登る山の傾斜を10〜20%緩やかに見積もる」という驚愕のデータが存在する。「自分が多くの知識をもつより、専門的な知識のある友人を多くもつ方がずっと素晴らしい」というマインドセットは、実に秀逸だ。友人という存在は、オキシトシン的幸福感の代表例だ。

 

良い友人をもつためには、その人の良い部分に注目する必要がある。その際、次のような視点を参考にすると良いかもしれない。「初対面の人と会う前の思考パターンには、次の3種類がある。その人が何をしたのかと、過去を気にするパターン。その人が何をしているのかと、現在を気にするパターン。その人が何をできるのかと、未来を気にするパターン。最も良いマインドは、いつだって未来志向である。」という言葉である。

 

また、これはパートナーにおける要素かもしれないが、2人(みんな)でいる際の「見た目」にも注意を向けてみてほしい。実際のところ多くの人が、「自分が何を着るか」にのみ意識を向けている。より良い関係を目指したければ、「パートナー(メンバー)とセットでどう見えるか」を意識してみるべきだ。「1人でオシャレより、2人(みんな)で素敵」である。

 

 

【パートナー・家族に関するマインドセット】

「エスプレッソ」というドリンクがある。言ってしまえば、究極に濃いコーヒーであり、その濃厚さ・コクは、通常のコーヒーの5〜8倍とも、10倍以上とも言われる。苦味・甘味・酸味・渋味・旨味といったコーヒーの味の要素をチャートにしたとして、それが一見五角形だったとしても、チャートの大きさを10倍にすれば、ひどく凹凸のある図形になり得る。だから、味の各要素が絶妙のバランスで調和しているエスプレッソは本当に貴重で、「魂が震えるほどうまい」とさえ絶賛されるのだ。

 

「パートナー」「家族」という存在は、このエスプレッソに似ている。多くの人にとって、パートナーや家族の笑顔を見ることは幸せそのものであろう。しかし一方で、何かとても気になることがあると、そこしか見えないほどこだわってしまうのも事実だ。コーヒーでは些細な違いが、10倍の濃さのエスプレッソになれば大きくなり、「極端に苦い」「極端に酸っぱい」と感じてしまうのと同様である。家の外で他人がするなら気にならないことも、家の中でパートナーや家族がすることならば気になってしまう。近い存在とは言え、それぞれの価値観がある。激しくぶつかったり深く悩んだりすることは尽きない。

 

しかしながら、パートナーや家族と共に笑顔になったり、素晴らしい時間を共有できたりすれば、言葉にならないほど幸福なのもまた事実だ。生きる上で、「自分の達成よりパートナーや家族の達成の方が嬉しい」「自分の痛みよりパートナーや家族の痛みの方が苦しい」という人も少なくないだろう。「大変だからこそ、素晴らしい」というのは、やはり真実なのではないだろうか。

 

今はこういう悩みがある。しかし、それはパートナーだから、家族だから仕方ないことだ。むしろ、そうだからこその悩みだ。これを乗り越えたら、1人では得られない幸福感がみんなにもたらされる。そう思えば、心は少し軽くなる。パートナー・家族という存在は、「最も近いし、最も遠い」ものだ。しかし、そこにある「違い」と、そこから生じる「悩み」、悩み解消のための努力や創意工夫こそ、この世界で最も大きなオキシトシン的幸福感の源泉なのだ。

 

 

【脳科学・心理学・行動経済学・生物学などに学ぶ、心の動かし方】

ヒトのみならず生命体のほとんどは、生存戦略のため、脳のエネルギーを節約するように進化している。目の前の事象1つ1つに対して熟考して総合的判断をしていては、脳の負荷が莫大になるし、利益が遠ざかり、損失を生んでしまう場面も多くなる。そのためヒトは、「この状況ではこう反応する」という自動行動パターンを獲得した。それが、「返報性の原理」、「一貫性の原理」、「社会的証明の原理」、「好意の原理」、「権威の原理」、「希少性の原理」という6つである。

 

これらの原理への科学的な深い理解は、コミュニケーションの際の確信度を大きく高める。自分の言葉や表現方法にエビデンスが伴うと分かっていれば、コミュニケーションそのものの効果も圧倒的に飛躍し、オキシトシンがもたらす幸福感も同様に飛躍するだろう。

 

1番目に挙げた「返報性の原理」とは、「もらったものに対してお返しをしたくなる」という心理だ。これについては、全ての人が実感をもつと言っても過言ではないだろう。この返報性を理解し、有効に活用することこそが、史上最強のコミュニケーション・メソッドと言っても全く差し支えない。これも多くの実感を得るだろうが、返報性は「望まぬ厚意に対しても」「好き嫌い・善悪をも軽く越えて」「より多く返そう」と機能する。それが、「大きな文化の違いがあっても」「遠く隔たった距離であっても」「自分が極限状態であっても」「自己利益を越えてでも」だ。率直に言って、恐ろしいほどの影響力を誇るのである。

 

「返報性の原理」を「ヒトとして」という視点から考察すれば、返報性がヒトの繁栄の大前提となっていることが分かる。ここまでヒトの社会が発展したのは、種の個体同士が協力し、知識とマインドセットを磨き、テクノロジーを飛躍させたからである。もしヒトが、自分のことだけ考え、他者と協力しない種であれば、現在の繁栄は決してあり得ないだろう。しかしながら、他者のために生きることだけでは、種の生存や繁栄は効率化しない。むしろ、そのような種はすぐに絶滅してしまう。自分の生存と他者への親切が見事なまでに両立されて、今日の社会があるのだ。自分のことを考える(自分の生存確率を上げる)ことと、他者に親切にする(種の繁栄を目指す)ことは共存しないように思えるが、他者への親切に対して「オキシトシン的幸福感」が付与されていることと、返報性による個人及びコミュニティからの「リターンへの期待」が、見事にその共存を成し遂げる。また、恩返しをしないことで「恩知らず」というレッテルを貼られる恐怖も、返報性の実現を加速させるのだ。返報性は、ヒトという種に、本能として深く刻み込まれた心理プログラムなのである。

 

2番目に挙げた「一貫性の原理」とは、自分が決めたスタンスを維持したくなるという心理だ。「ここまで来たら引き下がれない」という感覚をもったことのある人は多いだろう。また、そのような感情に動かされ、後に引けなくなっている人を見たこともあるだろう。一貫性は、個人レベルの行動(言うことや書くこと)を伴うと強化され、周囲への宣言でさらに強化される。ここに本人の苦労がかけ合わされれば、さらに倍々的に一貫性が強化される。

 

「一貫性の原理」を「ヒトとして」という視点から考察した場合、一貫性の維持が社会的評価(誠実さ)につながっていることが分かるだろう。最初に宣言したことを宣言通りにやってくれる存在に対しては、誰しも信頼感をもちやすい。行動に矛盾ばかりがある人は、ヒトという種が発展した要素である「コミュニティ」に参加すらできない。一貫性をプログラムされていることは、種の存続の観点からも合理的なのだ。現代社会では自分の意見を変化させたり、誤りを素直に認めたりする方が効果的な部分も多いだろうが、多くの人は一貫性という種のプログラムに従ってしまう。だからこそ、素直さは貴重であり、広く賞賛されるのかもしれない。

 

3番目に挙げた「社会的証明の原理」とは、多数が支持するものや裏づけがあるものに対して、敏感に反応するという心理だ。多くの他者が同じように実行していることがあったとすれば、それを同じように実行した方が、自分にかかる負荷は下がり、損失を出すリスクも減る。意志決定が必要なくなり、準備や新たなアイディアの創出も必要ない。「自分で何かを買う人は5%で、残り95%は他人の真似をする人」と言われるのも納得だ。特に、自分があまり知らない分野や環境において、社会的証明はずっと強化される。この場合の同調圧力は破壊的だ。あからさまなサクラだとしても、社会的証明が強く作用することは特筆すべき事項であろう。

 

「社会的証明の原理」を「ヒトとして」という視点で見ると、そのベネフィット(いくつかのメリットによって対象者が得られる恩恵)が、意志決定エネルギーの節約と、「自分だけ損しないこと」の実現に尽きることが分かる。社会的証明を無視することは、自分で危険に突っ込み、四苦八苦するという選択そのものである。ヒトという種に限らず、効率の悪過ぎる生存戦略は採用されないのだ。

 

4番目に挙げた「好意の原理」とは、自分が好きなものに対して、敏感に反応するという心理だ。好意は様々な要素において発動する。顔やスタイルなどの身体的魅力、共通点があるという類似性を思い起こす人は多いだろう。「あなたが好きです」と言われれば、それがお世辞だと分かっていても、その相手を意識してしまう。これこそが好意の効果だ。また、接触頻度が高まると次第に好意をもってしまうという面もある。対象を好きでなくても、そのイメージキャラクターが好きであれば、商品にも好感をもちやすくなる「連合効果」も挙げられる。

 

「好意の原理」を「ヒトとして」という視点で見ると、意志決定コストの大幅削減というメリットが浮かんでくる。ヒトは多くの選択肢があると、逆に判断に迷ってしまい、集中力を欠き、損失を出す可能性が高まる。単に「好きだから」という直感で、思考停止状態のまま物事に取り組んだ方が楽であるし、生存確率も高まったのだ。好きな対象がヒトによって違うのは、様々なバリエーションを検証して、特に良いファクターを共有して種のベネフィットにしていくという、巧妙過ぎる生存戦略だと言えよう。

 

5番目に挙げた「権威の原理」とは、ある特定の地位にある人や専門家の意見に対して、敏感に反応するという心理だ。権威を示すようなファッションであったり、社会的な肩書きであったりといった要素に対応して、その人への信頼度が高まることは容易に想像できる。驚くことに人は、相手が権威をもっていると認識した場合、その人の身長を実際よりも高く知覚するという。また注目すべきは、権威こそが最も捏造しやすい要素であることだ。「ヒトとして」という観点について、その理論は社会的証明の原理・好意の原理と本質的に同様である。

 

6番目に挙げた「希少性の原理」とは、特別感のあるものや機会に対して、敏感に反応するという心理だ。ヒトは、「レアなものにはメリットがあるに違いない」と思いたい。モノにおいても、サービスにおいても、情報においても、数量限定や期間限定という要素は人々を強烈に魅了する。さらに言えば、新しい希少性は特に人々を誘惑する。またさらに、そこで競争が煽られたり、その希少性に関する情報すらも希少であったりすれば、かけ算的に希少性の効果は高まる。「現在人気急上昇中! 売り切れ必至のこの商品が○日まで○個限定で○割引!」というコピーから、私たちは逃れる術をもち合わせない。「ヒトとして」という観点で考察すれば、その理論が「自分だけ損をしたくない」という社会的証明の原理や好意の原理、獲得の末に得られる自分の権威など、各要因が複雑に絡み合って生まれるものであることが分かるだろう。

 

このような6つの破壊的原理に加えて、それら6つの要因が複合的に表出された認知バイアスについても、いくつかの代表例を示しておく。

 

バイアス

□都合の良い情報だけを正しいと思い込む「確証バイアス」

□結果を出している人に対して、その不可解な言動にも意味をつけて納得する「結果バイアス」

□異常な事態を正常と捉える「正常性バイアス」

□自分の所属集団が優れていると考える「内集団バイアス」

□自分の所属集団の成功は内的要因で、失敗は外的要因と考える「(強化)内集団バイアス」

□物事を両極端な2つの内容に分けて捉えてしまう「バイナリーバイアス」

□前述の各バイアス+不都合な事実の忘却・若さへのこだわりなどが複雑に絡み合った「過去美化バイアス(ポリアンナ効果)」

□全ての人々の行い(正義や悪徳)に対して、公正な結果が返ってくると思い込んでしまう「公正世界仮説」

 

思考

□多くの要素の中から、必要とする情報や重要度の高い情報のことを無意識に考える「カクテルパーティー効果」

□善悪問わず、仲間のしていることを模倣して同様の結果を得ようと考える「ソーシャル・プルーフ」

□失敗が予想される場合に、言い訳になるような外的要因を準備して自尊心を保とうと考える「セルフ・ハンディキャッピング」

□大きな障害によって、逆に意地でも目的を達成しようと考える「ロミオとジュリエット効果」

□年長者が若者に多くを語ろうと考える「自己複製欲求」

□能力があるのに、自分の能力を過小評価してしまう「インポスター症候群」

□能力がないのに、自分の能力を過大評価してしまう「アームチェア・クォーターバック症候群」

□地位や名声に執着する「ファットキャット症候群」

□ある事象(特に他者の成功)が連続して起こると、次も同じことが起こると過度に期待してしまう「ホットハンド効果」

□考えないようにしようと思えばしようと思うほど、当該事象のことを考えてしまう「皮肉なリバウンド効果」

□自分が気にしていることは、他者も気にしていると誤って考えてしまう「スポットライト効果」

□社会的意義の高い活動をしていると、多少非倫理的な行動をしたり、自分を甘やかしたりしても良いと考えてしまう「モラル信任効果」

□他人には的確なアドバイスができるのに、自分のことに関しては適切に考えることができなくなってしまう「ソロモン王のパラドックス」

□自分の行動に成果が伴わないことを何度も経験するうちに、必ず成果を出せる状況でも行動を起こさなくなってしまう「学習性無力感」

 

判断(印象)

□全体的な印象を捉える場合に、第一印象の1つが強烈な印象を与える「ハロー効果」

□最初の印象が違う印象で上書きされる場合に、強烈な印象を与える「ゲイン・ロス効果」

□短い映像や小さい音量であっても、見聞きした人に強烈な印象を与える「サブリミナル効果」

□誰にでも該当する内容なのに強烈な印象を与える「バーナム効果」

□噂話が直接のコミュニケーションより強烈な印象を与える「ウィンザー効果」

□2つ以上の物事を比較した際に差があると、その差が実際の差よりもずっと大きなものとして強烈な印象を与える「コントラスト効果」

□ある事象に対して、感情が最も高まった際の印象+最後の印象のみで、全体的な印象を判断してしまう「ピーク・エンドの法則」

□お金に対して無意識的な名目づけをすることで、(ハウスマネー的に)派手な散財をしたり、極端な節約行動に走ったりしてしまう「メンタル・アカウンティング」

□財やサービスなどを消費すれば消費するほど、そこから得られる満足感が減ってしまう「限界効用逓減の法則」

□購入した高品質な財やサービスによって新たな価値を得た場合に、その価値に合わせて、自分の周囲のものを一新したり統一したりしたくなる「ディドロ効果」

□何度も同じ人やサービスに接触することで、警戒心が薄れて関心・好意などの印象を抱きやすくなる「ザイアンス効果」

□平均的な人のミスでは好感度が下がるのに、熟練した人のミスでは好感度が上がる「プラットフォール効果」

□かかった時間が長いほど価値がある(短いほど価値がない)と思ってしまう「デュレーション・ヒューリスティック」

□抽象的な概念(例えば権威)を、具体的な動作や状態(例えば高さ・長さ)に結びつけて捉える「概念メタファー」

 

表現(意志決定)

□最初の設定や状況を変えない「デフォルト効果」

□適切な数の選択肢があると、その中から無理にでも選ぼうとする「決定回避の法則」

□複数のレベルの選択肢がある場合、真ん中の選択肢を選ぼうとする「松竹梅効果(極端性の回避)」

□情報が多過ぎると、意志決定が困難になってストレスを抱えてしまい、生産性も低下してしまう「情報(選択)オーバーロード」

□自分が多く見聞きした情報や、アクセスしやすい情報を基準にして意志決定する「利用可能性ヒューリスティック」

□周囲の多数意見を判断材料にして意志決定する「バンドワゴン効果」

□周囲の多数意見と違った言動になるように意志決定する「スノッブ効果」

□事前に費やしたお金・労力・時間などが大きいほど、損失が生じると分かっていても、対象にさらなる投資を重ねるような意志決定をする「サンクコスト(コンコルド)効果」

□伝え方を工夫されることによって、対象への見方・考え方が変わり、意志決定の際に影響を受ける「フレーミング効果」

□事前に受けた刺激や情報によって、意志決定の際に無意識的な影響(アンカリング)を受ける「プライミング効果」

□当初は意見が左右されなくても、時間が経つと意志決定の際に影響を受ける「スリーパー効果」

□失うこと(得る喜びを10とした場合、それを失う悲しみは20〜30に感じられるという研究結果があるほど)に過剰反応してしまい、合理的判断ができなくなり、意志決定の際に大きな影響を受ける「プロスペクト理論」

 

その他

□「自分はバイアスについて理解している」というバイアス

□「自分はバイアスに陥らない」というバイアス

 

この項で紹介した科学的知識は、たった1つでも絶大過ぎる影響力をもつ。「フット・イン・ザ・ドア・テクニック」や「ドア・イン・ザ・フェイス・テクニック(譲歩的要請法)」などに見られるように、自動行動パターンを組み合わせて相乗的に使われたならば、そのナッジに、個人はおろかコミュニティや国家までもが、どこまでも超強大な影響を受けるのだ。

 

多少なりとも、「人の心を操る」というダークな要素を説明したことは否めないが、ヒトの自動行動パターン6原理と、それぞれの認知バイアスについて理解をしておくことで、良好なコミュニケーションができたり、悪質なビジネスに引っかからなくなったりするだろう。お分かりのように、「そもそも人は、合理的ではなく、非合理な意志決定をしてしまうもの」なのである。このポイントを深く理解し、より良いオキシトシン的幸福感を目指して、コミュニケーションを吟味するようにしよう。

 

 

 

○第四章 ドーパミン的幸福感

ドーパミンは「快楽の幸福感」をもたらす。前述した運動のように、「ヒトとして」というファクターでもドーパミンは分泌されるが、この章ではどちらかと言えば、「人として」という視点にフォーカスする。特に現代社会を生きる私たちの幸福感は、ドーパミンとの関係に大きく左右される。この章の【運動(スポーツ)】以降の項で挙げるものは、現代社会特有のものであり、旧石器時代に必要であった要素ではない。目標を達成することで得られる快楽や、それに伴う集中力・記憶力・モチベーションの向上は、狩猟・採集において発揮されればそれで良かった。しかしながら、現代社会ではドーパミン的幸福感を適切に追い求めることが、自己実現や理想の人生に直結する。それが良いか悪いかは置いておいて、適切に自分の人生を向上させるための、ドーパミン的幸福感について追求していこう。

 

【運動(スポーツ)】

繰り返しになるが、ヒトは運動することを前提に設計されている。「運動VS脳トレ」は運動の圧勝であり、歴史的な大革命、大発見、大作を残す人は必ず運動しているものだ。しかも運動の効果は、今この瞬間からもたらされる。この項では、ドーパミン的幸福感につながる運動について述べていこう。なお、この項で扱う運動(スポーツ)とは、有酸素運動や瞬発力を伴うものを指す。高負荷とまでは言わないが、多少息が上がったり、身体に刺激が来たりするような運動だと捉えてほしい。

 

なぜ運動によってドーパミンが分泌されるのか。それは、「ヒトとして」見た場合、身体を動かす場面でドーパミンが分泌され、集中力(ハンティングや採集の精度)や記憶力(「獲物か危険生物か」「可食か不可食か」などの知識)が高まれば、獲物を獲得する可能性が上がるからだ。運動による幸福感は、どちらかと言うと、生命維持のシステムの副産物であるのかもしれない。

 

では、よりドーパミン的幸福感を得て、なおかつパフォーマンスを高める運動について見ていこう。運動のバリエーションは様々だが、特に脚を使う有酸素運動やスクワットの効果は抜群で、危険回避能力・創造性・問題解決力の向上など、非常に強力な作用を発揮する。また、脳の活性化に大きな役割をもつ最強脳内物質「BDNF」も3倍近く合成される。脚を使う運動の有効性は、「立ってテストを受けるだけで成績が向上した」というデータに如実に示されている。

 

運動習慣が確立された場合の効果は、やはり驚異的だ。データを実際に見てみよう。

 

■1日15分の運動で、死亡率が半分になる。

■1日20分のややスピーディーなジョギングで、寿命が4年半長くなる。

■中強度の運動を週に2回以上、20〜30分行うことで、20年後にアルツハイマー型認知症になるリスクが3分の1になる。

がんリスクが減少する。

■コロナウイルス重症化リスクが50%低下する。

■週2回以上の運動をしている人は、ストレスや不安とほぼ無縁である。

■運動習慣によって、攻撃的な面が少なくなり、シニカルな態度もなくなる。

■鬱病に対して抗鬱剤を使用した場合の再発率は38%だが、運動を習慣化した場合の再発率は8%である。

 

「鬱病・認知症に対する最強の薬」は、間違いなく運動なのだ。また、このような科学的データに加えて、運動によって知能指数が高くなるという研究結果まで存在する。加えて、「半日座り続ける人は、集中力や記憶力が著しく低下し、死亡リスクが40%以上も高くなる」という衝撃の事実が証明されていることも覚えておいてほしい。

 

ちなみに、ヒトは運動不足になると、筋肉部位の多い表情筋を使って運動量を確保しようとする。だから食べ、肥満になってしまうのだ。運動は、脂肪燃焼・食事制限という2つの方向から考えても、最も有効なダイエット方法であると言えよう。

 

 

【モチベーション】

ドーパミン的幸福感を得るためには、努力が避けて通れない。そのためにモチベーションを維持することは、最も重要な要素の1つだ。ここでは、モチベーション維持の具体的なメソッドについて示していこう。

 

モチベーションには、報酬獲得や処罰回避のために努力する「外発的モチベーション」と、根源的欲求のために努力する「内発的モチベーション」がある。外発的モチベーションの場合は、モチベーションそのものを他者に託すことになり、努力対効果は大きく下がる。これに対して内発的モチベーションの場合は、粘り強い継続的努力と創意工夫が生まれ、結果的に努力対効果を大きく上げやすい傾向にある。だから、なるべく内発的モチベーションをもてるようなメソッドを会得することが必要になる。その点を見ていこう。

 

内発的モチベーションを創出するための最高のメソッドは、理想(欲望)を、実現後の自分や周囲の反応というストーリーまで強く思い描いて「未来記憶」とし、その未来記憶と現実との差を埋めようとする「ギャップ・モチベーション」である。ギャップを感じた場合、脳は勝手にモチベーションを上げようとすることが、数々のデータで証明されている。心ではなく脳に対して、直接モチベーション発動を訴えかけるのだ。想像力豊かに、ポジティブな妄想をすることは、そのファースト・ステップかもしれない。

 

モチベーションに関する注意点も述べておきたい。それは、成果を出す人ほど、「外発的モチベーション」に依存してしまうという事実だ。例えば、ビジネスで王道の「SMART目標(目標の数値化)」は、ともすれば外発的要因に全モチベーションを向けてしまうことにつながる。結果にこだわり過ぎると、他者の求める結果が出そうなものにしか取り組まなくなってしまう。これが教育的側面を伴うと最悪で、子どもたちはコスパの良いことにしか目を向けなくなってしまう。だから、「自分の成長につながるか」「自己実現になるか」「他者や集団の幸福につながるか」といった内発的要因に立ち返り、理想の自分・生き方を思い返すための、明確なフィードバック・システムを確立しておく(確立させておく)と非常に良いだろう。

 

 

【習慣化(継続的努力)】

モチベーションが維持できても、継続的な行動が伴わなければ意味がない。いかに習慣化できるかは、ドーパミン的幸福感を得られるかどうかにダイレクトに関係してくる。ここで重要なのは、一過性の努力よりも、「習慣というシステム」の方がずっと大切であるということだ。実際、「努力できる人」ほど、努力を苦にはしていない。努力できる人は、自分に期待せず、やる気を待たず、その時間になれば粛々とタスクに取りかかる。つまり、あくまで「システムに従っている」のであり、一過性のハイ・モチベーションに行動を左右されてはいない。実際、物事に取りかかりさえすれば、「作業興奮」という作用が出て、パフォーマンスが高まることも証明されている。

 

習慣化について、有効なメソッドを見てみよう。何かを習慣にしたければ、その習慣を手にすることで実現する欲望を明確にした上で、すでに習慣となっているものをトリガーにすると良いと言われている。定着させたい新たな習慣の前に実行するルーティーンとして、現在の習慣を利用するのだ。「Xならば(詳細な)Y」と決めておく「if-thenプランニング」が、爆発的効果を生む最強メソッドであることは、脳科学的にも証明されている。このメソッドで、習慣化は3倍も実現しやすくなるというのだ。

 

習慣化がうまく軌道に乗れば、その効果を3週間程度で実感できるだろう。また、最初は習慣の達成条件を緩いものに設定しておくことや、他者を巻き込んでシステム化することも、非常に有効である。習慣化に関する知識そのものが、習慣化に大きく貢献するのは言うまでもない。ヒトは「ホメオスタシス(「現状維持バイアス」)」という生命体のシステムにより、変化を嫌い、安定を好む性質をもつ。このシステムは、ヒトの体温や血圧といった身体内部の状況や、精神性を一定に保つための重要なプログラムである。したがって、ヒトはそもそも生命体として、現在の習慣をなかなか変えることができないのだ。裏を返せば、良い習慣を確立できれば、逆にサボるのが難しいということでもある。脳科学的には、習慣化にかかる日数は「66日」だという。66日という小さな目標ができればドーパミンの効果も得やすい。このキーワードを意識することで、習慣化がずっと実現しやすくなるはずだ。

 

 

【学習】

多くの人が習慣化したいこととして挙げるのは学習であろう。学習によって、私たちの可能性は果てしなく広がっていく。この項では、より大きなドーパミン的幸福感のために学習が必要となる人に向けて、学習メソッドを紹介していこう。

 

ヒトのDNAには、生命体の成長や進化に関する重要な情報が、数多く刻み込まれている。しかしDNAのメモリは、脳のメモリの1000分の1だという。そのため、脳内にある情報全てをDNAにインストールしておくことはできない。だからヒトは、自身が受け継いだDNAの情報に加えて、さらに新たな情報を獲得し、自分自身で知識や技術を身につける必要があった。「DNAで全情報を受け継げば良いのに」と思うかもしれないが、その場合、環境の急速な変化があれば、その種は簡単に絶滅してしまう。どのような環境変化が起こっても大丈夫なように、「変化する余地」を大きく残しておく方が、種の生存・繁栄には有利だったのだ。この進化論的ファクトから理解できるように、学んで変化することこそ、生物の最強の能力なのである。「生きることは学ぶこと」だとも言えよう。

 

「生きることは学ぶこと」という内容について、詳しく見てみよう。ヒトは学ぶことによって、知能が大きく向上する。知能とは、広義には「適応力」を指すが、この知能は8歳頃までに一旦完成を迎える。環境への適応として必要な要素は、なるべく早い段階で完成した方が好都合だからだ。しかし、脳の最重要部位とも言える前頭前野の発達は、30歳頃まで続くという。このファクトは、ヒトにとって学びが、生命体のメカニズムに強く結びついている証明と言えよう。実際、次のようなデータも存在する。

 

■知能がヒトにとって大事な要素だからこそ、(ある程度)遺伝する。

■知能が高いほど身体的魅力が高い。

■知能が高いほど疾病リスクや不慮の事故の危険を回避できる。(実際に、交通事故に遭う可能性が3分の1になるという。)

■知能が高いほどトラブルを起こしにくいし、トラブルに巻き込まれにくい。

 

優秀な人ほど「金銭」「人脈」「健康」「時間」を非常に大切にするというが、知能が上がれば4つの資産はどれも飛躍的に増え、結果として各脳内物質の相乗的幸福感は、爆発的に向上するはずだ。

 

それでは、学習効果を高めるメソッドを見ていこう。まずは、学習メソッドの前提となる理論について確認していきたい。ヒトの記憶には、大きく分けて「短期記憶」と「長期記憶」の2つがある。ヒトの「ワーキングメモリ(情報を一時的に記憶しておく能力)」で保持された情報(短期記憶)は、脳の「海馬」が長期的に保持した方が良いと判断した場合に、長期記憶として形成される。その基準は、「(ヒトとして)生存・繁栄に有利であるかどうか」だ。したがって、学習の最大のポイントは、「どれほど海馬に重要な情報だと判断させるか」である。

 

しかしながら、「この生物は危険」「火は危ない」「この植物は食べられる」といった情報と違って、学習で得られる情報は、生命維持に直結するものでない場合が多い。だから学習者は、理論に基づいたテクニカルなメソッドを使って、学習の生産性を高めなければならない。では、学習したことを長期記憶として定着させるにはどうすれば良いのか。

 

まず挙げたいキーワードは、「想起」だ。先ほど、「どれほど海馬に重要な情報だと判断させるか」が学習の最大のポイントだと述べたが、何度も脳に同じ情報が送られれば、海馬はその重要性を認識してくれる。だから、正しい理論に裏づけられた「復習」を実践していくことが、学習における最重要事項なのだ。「エビングハウスの忘却曲線」から導かれるデータによると、復習のタイミングは翌日、3日後、7日後、21日後、30日後、45日後、60日後が良いとされている。3日後の復習時点では覚えた内容を半分以上忘れているが、60日後の復習時点には内容の9割以上を覚えているという。長いスパンで想起を繰り返すことは驚くほど有効である。「計画的」に復習することが、やはり最良である。

 

復習の際は特に、テストを有効活用するのが望ましい。テストを活用すれば、自分の力だけで記憶を取り出す「リトリーバル学習」につながり、長期記憶への定着率は(3倍以上高まるとするデータもあるほどに)向上する。また驚くべきことに、想起しなかった内容の記憶もより定着するのだ。だから、「今日のまとめより、明日の復習」である。また、リトリーバル学習は、生涯学習の分野でも非常に有効だ。「若い頃には覚えていたけれど、それ以来忘れてしまった」と思えるのなら、脳科学的には大きなチャンスなのである。

 

記憶化に関しては、私たちの睡眠が重要な役割をもっている。海馬に到達した記憶のうち、特に生きるために有効と判断された情報は、睡眠中に脳の様々な部分で再放映される。この中で、その記憶は、長期的に保持される「意味記憶」へと形を変えるのだ。睡眠と記憶の関係については多くの研究があるが、まず何より、質の良い睡眠を意識することが最も大切である。

 

記憶化、及びその最大のポイントである想起について解説してきた。他の具体的な学習方法についても、そのメソッドをピックアップしてみよう。

 

■「ツァイガルニク効果」によると、中途半端なところでストップされた情報こそ想起しやすいという。ドラマなどの続きが気になるのは、この影響によるところが大きい。

■スキル会得や課題解決の学習のために集中を続けていると、「レミニセンス効果」により、睡眠中に海馬が働き、スキルを身につけたり課題を解決したりすることがある。

■定位置のシュートを何度も練習するより、定位置より少し短い距離と少し長い距離のシュートを反復練習(位置学習)する方が、定位置のシュートの成功率を上げるという。学習においても、幅広い分野やレベルを網羅する方が効率的である。

■「絶対合っている」から「間違っていたのか!」となるような経験は、記憶定着を大幅に向上させる。確信ある仮説が外れた場合、報酬系のドーパミンが大きく活性化し、ニューロン回路のアップデートも起きる。(「ハイパー修正効果」)

 

上記の理論・メソッドはあくまで一般論であり、学習者によって最適なメソッドは異なる。「自分により合った学習はどのようなものか」を吟味することも非常に大切な要素だ。

 

つまり、メタ認知(自分の認知を認知すること。)をすることが、学習でも大いなる効果を発揮するということだ。学習効果には知性や才能が10%関与するが、メタ認知能力は17%以上も関与するという。ちなみに、学習方法を間違えている学習者ほど、自分の学習法に自信をもちやすい(「ダニング・クルーガー効果」や、その最高峰である「マウント・ステューピッド」)ことや、未熟な学習者ほど自信満々な相手に感銘を受けてしまう(「グル効果」)ことも証明されている。あらゆる学問から学び、あらゆる経験をし、あらゆるフィードバックをもらって「自分を知る」メタ認知は、学習においても、その先のドーパミン的幸福感の会得においても、核になってくるのである。

 

 

【仕事・生産性】

この項では、実際にビジネスの現場に出て活躍中の人に向けて、仕事のスキルについて述べていこう。注意しなければならないのは、学習に比べて、より「取捨選択」が重要になるということだ。余計な仕事を省いたり短時間で終わらせたりすることが、結果的に本当にやりたいこと・磨きたいことへの時間確保につながり、ドーパミン的幸福感を大きくすることにつながるはずだ。

 

当たり前のことだが、「仕事は『やらない』が一番早い」「戦わなければ絶対に負けない」のであり、多くの仕事を引き受けて何とかさばく人を、「仕事ができる人」とは呼ばない。「より少なく、しかし、より良く」というのを基本スタンスとするのが良いだろう。

 

自分の仕事の適性やスキル、ビジョンを理解し、「やらないことリスト」を作成し、リストに記載された依頼はきっぱりと断る。「やらないことを決める」ということ自体をやらないと、多くの人は「あれもこれも」となって、結局は挫折してしまうのだ。何をやるかだけではなく、何をやらないかという選択にもプライドをもとう。イエスマンでは絶対にダメだ。 

 

つけ加えると、「結果の80%は原因の20%が生み出している」という「パレートの法則」の理解が、「やることリスト」「やらないことリスト」の作成を手厚くサポートするだろう。パレートの法則は、あらゆるものにおいて該当する。この法則は、「どの20%に注力するか」という見極めが、あまりに重要であることを教えてくれる。生産性の高い方法は、20%の力で80%の成果を生み出すので「努力量の4倍の成果」であり、生産性の低い方法は、80%の力で20%の成果しか生み出せないので「努力量の4分の1の成果」である。そこには、実に15倍以上もの生産性の違いが生まれる。つまり、その「20%を見極める」ために、私たちは知識と経験をフルに導入すべきなのだ。

 

「やるかやらないか」の吟味をした上で、実行のメソッドとして特に生産性への貢献を果たすのは、「先手必勝」である。仕事においては「後でやる」という選択を極力避けたい。後回しは、実は予想よりずっと生産性のない行為である。なぜなら、「後で思い出す」「後からモチベーションを高め直す」という新たなタスクを自ら設定してしまうからだ。加えて、「先延ばしにする癖は、あなたから時間とお金と尊厳を奪う」とまで言われるということも、ここで補足しておこう。人は、できるはずのことができていないために自尊心を損ない、やるべきことをしていないために罪悪感にさいなまれ、やり終えていないことが増えていくためにストレス過多になるのである。やはり、特に仕事においては、「Play Fast」こそ鉄則なのだ。

 

最後に、2つの知識について述べておこう。1つは、与えられた時間が長いと、人は時間をダラダラ使う傾向がある(「パーキンソン効果」)ことだ。もう1つは、25分を仕事の1単位にして5分の休憩を挟む「ポモドーロ・テクニック」が、最初に見聞きしたものが強く印象に残る「初頭効果」と、最後に見聞きしたものが強く印象に残る「親近効果」のかけ合わせとなり、生産性を大幅に飛躍させるということである。

 

 

【集中力】

前項に関連して、集中力に関して述べておこう。集中力向上はドーパミン分泌とイコールであるため、集中力を磨くことは、幸福感を得ることとイコールであるとも言える。

 

驚くことに、ヒトはもともと、集中するようにできてはいない。1つの事象に集中せず、多方向に意識を向けた方が、種の生存・繁栄に有利だったからだ。自分や子どもの危険に気づくための能力とは、集中しないことだったのである。裏を返せば、多方向に意識を向ける必要がない環境では、1つのことに集中しても危険がない。つまり、環境を整えることが集中力向上のキーワードになる。自分の集中力の高まりに期待するより、科学的に集中できる環境を整えることに注力しよう。その際、情報端末は「近くにあるだけ」で、集中力を20%も低下させるというデータも参考にしてほしい。ちなみに、集中力の低下を感じた際は、課題の難易度を落とすのではなく、むしろ上げることで、集中力を再活性化させる可能性が高まるという。

   

大事なのは、集中力は、睡眠不足で著しく働きが低下するということだ。睡眠の質が悪ければ、自分の集中力が激しく落ち込んでいることにも気づけないのである。

  

 

【想像力・創造力】

ドーパミン的幸福感を得るために、アイディアを出すこと(「0→1」)が重要になる人もいるだろう。このアイディアに関しては、この章の他の項とは違い、あくまで「アイディアが出やすい傾向」を紹介するというニュアンスが強い。しかしながら、多くのアイディアマン、アイディアウーマンに共通する要素も含まれる。いくつか紹介していこう。

 

1日に人間は60,000回思考し、最大35,000回決断すると言われている。その割合は、顕在意識が3%(1%以下とも)で、潜在意識が97%(99%以上とも)である。顕在意識とは、氷山の一角(の一角)なのだ。驚くことに、この潜在意識では、非常に多くのタスクを、見事なまでに同時進行で処理することが可能になる。急にアイディアが舞い降りる体験をしたことがある人も多いと思うが、それは潜在意識でずっと思考を続けていたからなのだ。では、潜在意識の思考を顕在意識に表面化させるためには、どうすれば良いのだろうか。

 

キーワードは「リラックス」である。実は、リラックスしている場所や状態次第で創造性が高まり、アイディアは出やすくなるという。実際に、バス・ベッド・バスルーム・バーの「4B」という定義もある。日中に行う会議やデスクワークが創造性を高めるとは限らない。行き詰まったら、思い切って立って、自然の中を歩いてみると良い。自分でも予想外のアイディアが湧いてくるかもしれない。

 

次に、グループでのアイディア・ワークについて見てみよう。例えば、ブレインストーミングで創造性の発揮を目指す場合は、まず「奇想天外な意見」「ある意味バカな意見」を楽しみながら多く出し、思考の面積を広げることが大切である。集団のアイディアは、その面積の中に存在する。このプロセスがラテラルシンキング(創造的な水平思考)を生むのだ。例えば、次のようなアイディアは、ザ・ラテラルシンキングと言える。

  

■フルーツを均等分配する際にジュース化する。

■通信ツール開発においてボタンを取り払う。

■開発ミスによって生まれた弱い接着剤を、ポストイット(付箋)に応用する。

■極寒地域での食品保存に冷蔵庫を用いる。

■コップに入った半分の水を見て、「濃い水割りを作れる」と捉える。

 

ヒトという種族の繁栄のためには、常人とかけ離れた奇想天外な言動をする者(広義の「サイコパス」)の存在が有利に働いたのだ。

 

また、脳が認識する情報は、実際に起こっている現象の0.004%だという研究結果があることにも注目してほしい。脳には、「RAS」という情報を必要・不必要に仕分けする機能がある。現在の自分に関係する情報以外は、このRASによって、脳に到達しなくなってしまうのだ。自分やパートナーの妊娠によって、他の妊婦に気づきやすくなる人がいるが、これはRASが必要な情報として認識回路をアップデートした結果(「カラーバス効果」)である。だから、新たに注目するものを意図的に決めてみたり、普段と全く違う環境に身を置いてみたりすれば、残り99.996%の情報から、爆発的なインスピレーションを得られ、創造性が大いに高まり、アイディアも出てくるかもしれない。

 

 

 

○第五章 エンドルフィン的幸福感

エンドルフィンは「恍惚感・多幸感」をもたらす。ここに、エンドルフィンのドーパミン効果増強作用が関係するのは言うまでもない。エンドルフィン分泌中は、ドーパミン的幸福感に属する多くの快楽も増大する。エンドルフィンの分泌条件は、身体に大きな負担がかかることだが、派生して「感謝」もその分泌条件となる。ただ、この「感謝」は次の章で特別に扱うとし、この章では、大きな負荷を身体にかけることで得られるエンドルフィン的幸福感について述べていこう。

 

【運動(高負荷の運動)】

再三の繰り返しになるが、ヒトは運動することを前提に設計されている。「運動VS脳トレ」は運動の圧勝であり、歴史的な大革命、大発見、大作を残す人は必ず運動しているものだ。しかも運動の効果は、今この瞬間からもたらされる。この項では、エンドルフィン的幸福感につながる運動について述べていこう。

 

ここでの運動とは、ウェイトトレーニングや、長時間のハイスピード・ランニングを指している。大きな負荷がかかることでエンドルフィンが大量に分泌される「ランナーズ・ハイ」は有名な現象であり、経験した人も一定数存在するだろう。ランニング以外にも、例えば、スポーツにおいて「ゾーン」と呼ばれる現象に至るプレイヤーがいる。この状態のプレイヤーも大きな恍惚感・多幸感を得ていると考えられる。「シュートを打てば入る」「相手が止まって見える」という言葉は、ドーパミンの効果を超増強するエンドルフィンによるものであろう。

 

  

【サウナ】

継続的な「サウナ」とそれに続く「水風呂」「外気浴」の習慣(効果は劣るが冷水シャワーの習慣も有効。)は、「脳・身体の疲労回復」「ストレス解消・メンタルの安定」「血行促進・血圧安定・動脈硬化予防」「自律神経の調整力強化」「安眠効果」「美肌効果」「ダイエット効果」などの絶大な効果を誇る。サウナ内の熱さ、水風呂の冷たさを連続で味わうことで、身体には大きな負荷がかかる。そこで、ドーパミンの効果超増強、鎮痛作用をもたらすエンドルフィンが大量に分泌され、結果として、「ととのう」と呼ばれる恍惚感・多幸感を得ることができるのだ。テントサウナなどは、その効果をさらに高める可能性があるという。

 

 

【辛い食事】

激辛料理などの食事も、身体に大きな負荷をかける。この結果として恍惚感や多幸感を得ることができるのは、先の【サウナ】の項と同様の理由によるものだ。くれぐれも、臓器にまで過剰な負担をかけるような、度が過ぎたチャレンジは控えるようにしよう。

 

 

 

○第六章 「感謝」で幸福感を大爆発させる

「○第一章 脳内物質への理解を深める」の【エンドルフィン】の項で、「『感謝』については、単にエンドルフィン的幸福感に話が収まらないので、別に章を設けて説明しよう」と述べた。ここで、「感謝」についてその理論、特に絶大な効果を誇る感謝メソッドについて、丸々1つの章を割いて解説したい。

 

【感謝がなぜ幸福感を大爆発させるのか】

感謝が幸福感を最大限に高める究極のメソッドと言われれば、一見スピリチュアルな気もする。しかしながら、その科学を理解すれば、このシステムが実に理にかなっていることを痛感するだろう。

 

感謝で分泌される脳内物質は幸福感をもたらす4つ全てである。しかも、その4つとも異常なほどの質・量で大量分泌されるという。そして、特に中心となる脳内物質こそ、エンドルフィンである。しかし、「なぜ感謝が、『生命の危機を乗り越えるため』のエンドルフィン分泌につながるの?」と思うかもしれない。この疑問に対する回答は、旧石器時代のマインドをもってみれば導き出せる。

 

つまり、ヒトの歴史において感謝とは、「生命の危機を救ってくれた存在に対する感情」であったということだ。「食べ物を分け与える」「危険を知らせる」「手助けする」という行動は、旧石器時代では「生命の危機を乗り越える」ことに直結していた。したがって、感謝によって心身がリラックスし、パフォーマンスも大きく向上し、恍惚感や多幸感がもたらされるようにシステム化されたのだ。「第三章 オキシトシン的幸福感【脳科学・心理学・行動経済学・生物学などに学ぶ、心の動かし方】」で、「返報性」について述べたが、感謝は返報性にも大きく関係している。ヒトという生命体が発展していくために、感謝は絶対的な重要要素であったのだ。

 

さらに、感謝の素晴らしいところについて述べておきたい。「感謝で分泌される脳内物質は幸福感をもたらす4つ全てである。しかも、その4つとも異常なほどの質・量で大量分泌される」と先に述べたが、それはつまり、「感謝によって、4つの脳内物質の幸福感を、超相乗的に得ることができる」ということだ。例えば、感謝を「朝陽を浴びて気持ち良く1日を始められること」「健康な食事をできること」「自ら動いて移動できること」に向ければ、それはセロトニンとミックスされた幸福感になる。「他者とのつながり」への感謝をもてば、それはオキシトシンとミックスされた幸福感を生む。適切なドーパミンの幸福感は、そもそもセロトニンやオキシトシンの幸福感と結びつきやすい。加えて言えば、感謝に伴う笑顔や涙にも、大量のセロトニンとエンドルフィンの分泌作用がある。

 

このように感謝は、幸福感をもたらす他の脳内物質との偉大な超相乗的幸福感をもたらす。しかも1つの感謝は、後から何度でも噛みしめられる。「過去は美化されやすい」という性質によって、時間が経つほど感謝の効果は増しさえする。感謝は、これまで述べてきた脳内物質の素晴らしい要素をミックスし、その効果をどこまでも大爆発させる。つまり、「幸福感を最大限に高める究極のメソッド」そのものなのだ。

 

最後に、感謝によってもたらされる驚くべき様々な効果と、感謝に関するいくつかの名言を紹介し、この項を閉じよう。

 

■感謝に関する研究はエビデンスが多く、メタアナリシスの最高峰である。

■感謝は、素晴らしい人間関係構築に著しく寄与する。また、免疫力を大きく向上させ、健康増進と長寿に著しく寄与する。

■感謝は、副交感神経を活発にし、全身のリラクゼーション効果をもたらし、ストレス緩和をもたらす。

■感謝は、睡眠の質を向上させて最高の熟睡をもたらす。

 

■生涯で捧げた祈りが「ありがとう」の1回だったとしても、それで120点である。

■喜びがあるから感謝するのではなく、感謝するから喜びがある。

■感謝は最高の美徳であるだけでなく、他のありとあらゆる全ての美徳を生み出す創造主でもある。

 

 

【自然への感謝(バイオフィリア)】

正直、この項については、他の項より熱を感じさせるかもしれない。ヒトは元来、「バイオフィリア」という、本能的に自然とのふれ合いを求めるシステムを有しており、自然とふれ合う中で能力が引き出されるようになっている。自然の中でパフォーマンスが最適化するという事実は、「ヒトとして」視点で考えると至極当然のことだろう。

 

ヒトと自然に関するデータとして、次のような驚くべきものが存在する。

 

オフィスにバイオフィリアの概念を採用しただけで、幸福度が15%、生産性が6%、創造性が15%向上する。

■窓から緑の見える教室では、学業成績が13%アップする。

■森林浴で記憶力が20%アップし、ストレスが軽減され、ナチュラルキラー細胞の活動が50%増加して免疫力がアップする。

■1ヶ月に5時間以上自然の中で過ごすだけで、ストレスが大幅に軽減されるのに加え、脳が活性化して記憶力・集中力・創造力が向上し、鬱病予防がもたらされる。

■1ヶ月に12時間以上自然の中で過ごす人は、ほぼ鬱病にならない。

緑の見える病室の患者ほど、手術後の経過が良好で退院が早い。

■自然環境の設定は、特に生産性に関する事項(決断力・攻略力・危機対応力・情報活用力など)の向上において絶大な効果を発揮し、その向上率は、最低でも2倍、条件によっては4倍である。

■自然にふれる子どもは、前頭前野が大きく知能が高い。反対に電子機器に囲まれると、子どもの知能は低下する。

■3日間の「自然修正旅行」で、仕事において重要な創造性が50%アップする。

 

ここで、いくら強調しても強調し足りない超重大な事実を伝えよう。誰しも、自然の雄大さを前にして、自分の小ささを痛感することがあるだろう。また、自分が何か大きなものの一部だと感じることもあるかもしれない。このような体験は「Awe体験」と呼ばれているが、実は、「Awe体験」の際に脳は数十倍、場合によって数百倍以上も活性化するという。付随して、「Awe体験」で私たちは、健康増進(過剰な炎症性サイトカインを抑制し、神経を強化し、著しい抵抗力を与える。)、ストレス軽減(1回の体験で、PTSDに苦しむ人々のストレスレベルが30%軽減され、その効果は1週間続く。)などの驚異的効果も享受できる。感謝・感動・畏怖という心情に伴う、4つの脳内物質の超大爆発的相乗効果がその理由であるのは言うまでもない。

 

数多くの研究で、バイオフィリアが、あらゆる運動・瞑想よりも大きな効果を生むと結論づけられている。だからこそ、運動や瞑想を、自然の中で実践してしまえば良い。そうすれば、運動や瞑想の効果は何千倍にもなる可能性がある。決して大袈裟ではない。それほどに大自然は、それを包む大宇宙は、途方もなく偉大なのだ。

 

 

 

○第七章 「パラダイム・シフト」で、あらゆる感情を幸福感に変える

この章では、幸福感を得るためのパラダイム・シフト(ものの見方・考え方の大きな転換)について見ていこう。パラダイム・シフトが重要となる最も大きな理由は、「全く同じシチュエーションにおいても、パラダイムが変われば、ストレスを生む脳内物質が幸福感を生む脳内物質に変わる」からである。直面した刺激と自分の反応の間にはスペースがあり、そこに選択の自由(無限の選択肢)がある。「今この瞬間」の選択によって、パラダイムは変えられるのだ。実際に、「ストレスを脅威と認識した時点で、身体への悪影響が劇的に増大し、創造性、生産性、その他の能力が著しく低下する」という研究結果もある。ストレスという現象自体を、どのようなパラダイムで捉えるかによって、天国の頂上と地獄の最下層ほどの差が生まれるのだ。

 

ストレスは一見すると諸悪の根源のように見える。しかし、ストレスというシステムは、実は「ヒトにとって必要であり意味がある」からこそ、ヒトという種の中で脈々と受け継がれている。ストレスを生む「ネガティビティ・バイアス(ネガティブな要素への注目)」は、ヒトという種の生存・発展に大きく寄与している。この「ネガティビティ・バイアス」について詳しくは、この章の【不安・恐怖に関するパラダイム・シフト】の項で述べているので、参照してほしい。

 

しかしながら、あらゆる全てのストレスがあなたにとって良いはずがない。文明の発展によって「ヒト」から「人」になるにつれ、種の根源的なストレスを完全に越えたレベルのストレスが誕生し、私たち現代人は常にその危険にさらされている。この章では、ストレスを幸福感へのステップに昇華させるパラダイム・シフトについて述べていくが、まず前提として念頭に置いてほしいことがある。

 

「過度のストレスは百害あって一利なし」ということだ。

 

過度のストレスは、幸福感をもたらす脳内物質の分泌を大きく減少させる。すると、パフォーマンスは大きく落ちることになるが、中でも判断力の欠落は大きな問題だ。なぜなら、極限のストレスによって、脳疲労が限界まで進み、「そのストレスへの注目が精一杯となり、普段ならすぐに思いつく対応すらできなくなる」からだ。例えば、「相談する」「病院に行く」「対処法を調べる」など、平時ならすぐに思いつくし、他人が思いつかないなら不自然に思うような方法すら、極限まで追い込まれた人は、全く思いつかないのだ。つまり、極限状態に追い込まれたら、その人の力だけではどうにもならないのである。驚くべきことに、それは、研究者や医療従事者などの「心の専門家」についても全く同様だ。

 

この章で述べることは、あくまで極限状態でないストレスについて適用することを意図したものだ。「過度のストレスは百害あって一利なし」を念頭に置き、冷静な判断ができるうちに、過度なストレスからは全力で逃げてほしい。冷静な判断ができるうちに、調べてほしい。相談してほしい。加えて言うなら、本文章で述べてきた知識を生かし、メソッドを実行してほしい。特に大切な人には、たくさん感謝をしてほしい。感謝されると、エンドルフィンが多く分泌される。そうすれば、その人が極限状態に陥る前に、判断力を発揮し、何かしらの対応ができる(「極限のストレスに苦しむ人を見るだけで、自分の脳の神経系に影響が及び、コルチゾールが26%も上昇する。」というデータも行動の原動力にしてほしい。)のだ。それは、「本文章を読んでみよう!」と思えているあなたにこそ実践してほしい。あなたの実践で、誰かが救われる可能性は大いにある。

 

前置きが長くなったが、いよいよ具体について見ていこう。この章では、様々なストレスとの向き合い方、認識の創意工夫から話を始め、ストレスをポジティブなものに変えるためのパラダイム・シフト及びそのメソッドについて述べる。ここで重要なのは、パラダイム・シフトが起きたからと言って、以前にもっていたパラダイムが無駄になることはないということだ。むしろ、以前のパラダイムがあるからこそ、新しいパラダイムがより威力を発揮するし、違った立場の人へのかかわりも効果的になる。現在のパラダイムを確認し、それを大事にした上で、さらに強固にしたり進化させたりしていこう。

 

【悩みに関するパラダイム・シフト】

大前提として、「悩むということは、その物事を分かり始めた」ということである。悩みがあるから、自分の行動を変えることになり、そこに成長が生まれる。「悩める」ことはチャンスなのだ。悩んでいるという「今この瞬間」こそが、最高に大切なのである。このパラダイムが、成長の原理・原則そのものだ。絶対に、悩みを「劣等コンプレックス」にレベルアップさせてはならない。

 

成長のチャンスである悩み解消の手段は大きく2つだ。「リサーチに頼ること」と、「コミュニケーションに頼ること」である。

 

まずは「リサーチ」について考えてみよう。悩みがあるのなら、まずはとにかく、本を読んだり検索したりしてみよう。自分の悩みが、「世界初」「史上初」の悩みであるはずがない。全ての悩みは、過去に誰かが解決してくれている。まずはリサーチしよう。リサーチによって悩みの「理解」ができれば、不要な心の反応は止められる。そもそも、自然現象への理解など、人類史上様々な問題を解決してきた最強の知性とは、「対象を理解すること」である。インプットを通して知識・理解の「点」を打ち続けると、点と点がつながり「面」が形成されるような感覚を得る。そうすると、アイディアが驚くほど湧いてくる。特に読書は、熟練すれば熟練するほど、本当に爆発的な効果増大の可能性をもつ。読書によって、偉人との円卓会議さえ可能になる。「読書は最もレバレッジの高い活動」と言われるのも納得だ。本を読めば、著者への感謝も生まれてエンドルフィンが大量に分泌されるだろう。

 

次に、「コミュニケーション」について考えてみよう。悩みを抱えた場合は、その悩みをまず自分の脳の外で表現すると良い。具体的には、他者に相談するのだ。「悩みを話せば、その悩みは自分から離せる」という。一旦自分から悩みを離せば、その悩みを(相談相手を含めた)複数の視点で客観的に分析することができるし、そこにアドバイスや激励も発生する。そうして、悩みを「解決のためには?」という疑問に変換し、自己成長に向けたノルマへと昇華させるのだ。相談相手に対するエンドルフィンが大量に分泌されるのは当然だろう。

 

悩みがあることはチャンスそのものであり、リサーチやコミュニケーションで「悩みを自分から離(話)し、客観的かつ複数の視点で見ることで、レベルアップのためのノルマにしてしまう」ことを意識すると、悩みと上手に向き合えるはずだ。悩みに関するパラダイム・シフトも起こせるであろう。

 

 

【人間関係の悩みに関するパラダイム・シフト】

人の悩みの中で最も多く、最も大きいものは「人間関係の悩み」であるという。これには、ヒトがもつ根源的な欲求が大きく関係している。それこそ、「他者に認められたい」という「承認欲求」だ。この承認欲求があることで、自分自身や自分の行動が認められない場合に、人は悩みを抱えてしまう。前項で述べたように、「悩み」は自分自身を大きく成長させるファクターだ。しかしながら、人間関係の悩みは必ずしもポジティブなものではない。実は、この人間関係の悩みこそが、「極限のストレス」の代表格である。

 

人間関係の悩みを「極限のストレス」にしてしまわないように、重要なパラダイムを伝えておきたい。その最重要キーワードは、「課題の分離」である。その象徴は「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を飲ませることはできない」という言葉だ。

 

もう少し詳しく説明すると、「自分の課題(コントロールできること)」と「他人の課題(コントロールできないこと)」を分けて考えようということだ。「自分が何をするか」は自分の課題(変数)であり、自分で言動をコントロールできる。しかしながら、「自分の言動についてどう思われるか」は自分でコントロールできる要素ではなく、他人の課題(定数)なのである。

 

私たちは、「他人がどう思うか」ということで悩む必要はないし、そもそも悩む意味も価値もないのだ。課題の分離ができるようになると、人生は驚くほど楽になる。逆に課題の分離ができなければ、他人の人生を生きることになってしまう。

 

人間関係の悩みは自分のコントロール下にない問題であり、最も平等かつ最大の資産「時間」の無駄遣いであると理解していれば、物理的な余裕も心理的な余裕も生まれる。「悪いあの人」「可哀想な私」をダラダラ主張するよりも、「これからどうするか」を真剣に考えよう。やるべき自分の努力をしっかりと実行したのなら、自信をもって、「人事を尽くして天命を待つ」のだ。

 

あなたが行動すれば、それは届けたい人以外にも届くし、予期しない反応は必ずある。わざわざ「嫌い」と言いに来る人もいる。そこに1秒も割くことはない。「あなたの話はしていません。」で終わりである。批判されたとしても、あなたのペルソナ(仮面)が批判されただけで、あなた自体が否定されたのでは決してない。100人の「Good(いいね)」より、自分1人の「Good(いいね)」である。最後に、「人間関係の悩みを自分から離す」ことに関して、最も破壊的な威力を誇る言葉を紹介し、パラダイム・シフトを促そう。

 

■嫌な人のことをずっと考えるのは、その人と同居しているのと同じだ。

 

 

【不安・恐怖に関するパラダイム・シフト】

大事なプレゼンの前、プロジェクトを実行する前、大会の前、テストの前、日曜日の夜など、この上なく憂鬱になることがある。ニュースや作品に描かれた悲劇を、自分の生活に落とし込んで妄想し、トラウマレベルになってしまった経験もあるだろう。多くの人が、「この憂鬱さえなくなれば」「緊張がなくなれば」と思ったことがあるはずだ。しかし、この感情は「危険なものから遠ざかろうとする」という、ヒトとしてのメカニズムが正常に機能している証拠でもある。ポジティブな感情よりネガティブな感情を長く保持する方が、危機回避という面では都合が良い。実際、爬虫類以上の生物においては、論理的な思考を担当する前頭前野より、ネガティブ思考を担当する偏桃体の方が歴史的にずっと優位だった。ネガティブな感情を抱いて生命の危機を回避していくことが、どのような種の生存においても有利だったのだ。不安や恐怖は、決してネガティブな感情ではなく、むしろ自分の心が正常だと確認できる手がかりなのである。

 

脳科学的事実も、「不安や恐怖を特別問題視しなくて良い」という考えを後押しする。例えば、ストレスを感じた場合に、ヒトの身体は、身体の機能向上に作用する「アドレナリン」や、脳の機能向上に作用する「ノルアドレナリン」というホルモンを分泌することが知られている。この2つのアドレナリン系は、「闘争or逃走(Fight or Flight)」のホルモンだと言われる。危険生物に遭遇した場合に、ヒトは瞬時に「戦う」か「逃げるか」を選択する必要があった。どちらの選択をするにしても、身体機能と脳機能の向上は理にかなったシステムだと言えよう。その名残で、(適度な)不安や恐怖などのストレスは、ヒトのパフォーマンスを上げるのだ。ちなみに「ヤーキーズ・ドットソンの法則」というデータで、このことは証明されている。また、全くストレスを感じない人よりも、適度なストレスに対処し続けている人の方が長く生きることも立証されている。

 

不安や恐怖という「ネガティビティ・バイアス」のメカニズム自体をポジティブに捉え、さらに話を進めよう。

 

これらの感情自体を「1本目の矢」としよう。この矢が刺さることは、ヒトという生命体として当然の反応である。ここで、「1本目の矢が当たったことでストレスがかかっている」という状況を冷静に受容できれば良いのだが、多くの人は、そこに付随する余計な心配や、「こう思われるのでは」という妄想など、自分自身で「2・3本目の矢」を当ててしまう。実際、「悩みの99%は妄想が創り出す」と言われる。「貪欲」や「怒り」に加え、「業(時に世代を越えて人々を苦しめる、同じ反応の輪廻のこと。)」も、その原因は妄想である。

 

不必要な2・3本目の矢を刺し、不安や緊張を極限のストレスとするのではなく、自分のメンタルとフィジカルの適切な反応に、むしろ自信をもつべきだ。不安や恐怖を感じるのならば、「メンタルは安定している」と考えてほしい。そして、複数の研究が、「97%の心配事は起こらない(心配事が起きる可能性は13%で、その80%は解決可能。)」ことを証明している。1本目の矢が当たったら、なるべく早く落ち着いて、「現実を客観的に理解する」ように努めよう。これこそ、「サティ」「マインドフルネス」と呼ばれるメソッドである。

 

ちなみに、「不安と恐怖は明確に違う」ことを知っていただろうか。この2つの感情の違いは、「これから何が起こるか分かっていない(不確実性)」のか、「これから何が起こるか分かっている(確実性)」のかである。前者が不安で、後者が恐怖の説明だ。回避方法・解決方法を知っていれば、少なくとも恐怖によって極限状態に追い込まれることはない。「情報」という武器があれば恐怖は克服できる可能性が高いし、今後の見通しが立つことで、状況に対するコントロール感を得られる(「がんの疑いがあります。」と宣告された場合のストレス値は、「がんが見つかりました。」と宣告された際のストレス値より高いというデータがある。)からだ。情報収集次第で、不安は恐怖へと格下げできる。情報弱者になってはならないし、情報弱者にさせてはならない。情報収集は、恐怖・不安に関するパラダイム・シフトを起こす重要なキーとなるのだ。

 

 

【時間に関するパラダイム・シフト】

「時間がない」というストレスは、私たち現代人に重くのしかかっている。「全てを完璧にする」ためのテクノロジーは、「全て」そのもののサイズを爆発的に大きくしている。私たちが生きる現代社会では、魅力的なことを全て実行するのは不可能だ。時間は有限であり、人生はこの4000週間1回なのである。

 

だから、「全てをこなそうとするのではなく、全てをこなそうとする誘惑に勝つ」というパラダイム・シフトが大切だろう。実際、タイムマネジメントの意識そのものが、幸福度も生産性も大きく下げることが証明されている。逆に、「全てをこなせない」というパラダイムと余裕は、重要なことを心から楽しむことにつながる。

 

自分が本当にやりたいことを吟味・決定するための具体的なメソッドについては、この章の【イシューの吟味】を参照してほしい。あなたは、「やりたくないことに『ノー』と言う」レベルを大きく越えて、「やりたいことに『ノー』と言う」レベルにまで到達できるだろう。逆に言えば、そのレベルに到達しなければならないほどに、人生の時間は短いのだ。人生は「絶対にやりたい!orやらない」でしかない。

 

また、時間に関する重要なデータを示しておく。それは、「他者のための行動は、自分のための行動より体感時間が2倍長くなる」ということだ。他者のための行動には、そもそもオキシトシンやエンドルフィンの幸福感が伴う。その幸福感を得る時間が、2倍になるというのである。無理のない他者貢献を続ければ、あなたの日々は感謝に溢れる。そして、あなたの人生は「幸福な人生2回分」になるのだ。

 

パラダイム・シフトを通して、「全てをこなそうとせず、他者貢献のために時間を使う」ことこそが、究極のタイムマネジメントと言えるかもしれない。

 

 

【お金に関するパラダイム・シフト】

お金に関するストレスもまた、全人類に共通するファクターだろう。この項ではその解消のためのパラダイムを紹介したい。

 

幸福感を得るためのお金の使い方として、真っ先に挙げたいキーワードは「『モノ消費』より『コト消費』」である。科学的には、「経験を消費するよう意識することで、幸福感がかなり上昇する」という。しかもそれは、経験への期待だけでも同様の傾向を示す。これは、「報酬予測」によるドーパミンの効能だ。 「『モノ消費』より『コト消費』」を意識すれば、「人生の前半は後半への期待で終わり、人生の後半は前半への後悔で終わる」というリスクを軽減することができるはずだ。知識や経験などの「コト」は「モノ」と違って奪われないし、むしろ時間の経過によって美化される。

 

加えて、(搾取につながらないケースにおいて)「他者のためにお金を使うと、自分のためにお金を使う場合より幸福感がずっと上昇する」ことも補足しておく。「チャリティへの寄付は、家庭の所得が2倍になったのと同じ幸福感」「ボランティアへの参加で年収が2倍になったのと同じ幸福感」とも言われる。また、幸福感に伴って死亡リスクや早世のリスクも有意に低下する(ボランティア活動に積極的な人は、そうでない人に比べて、心臓血管系の病気リスクが低く、約5年長生きする。)という。

 

これらの事実は、経済学的には「倫理的満足感」と呼ばれ、心理学的には「ヘルパーズハイ」と呼ばれている。「他者に分け与えられる」という事実に伴う様々な感情は、当人の幸福感に著しく寄与するのだ。「お金は(無理のない範囲で)他者貢献に使うもの」というパラダイムは、あなたの人生をより良く、より豊かにするだろう。

 

 

【ポジティブ・シンキング】

「ポジティブ心理学」では、「自分のパラダイム(主観)によって、現実(客観)を変えることができる」と考える。心の在り方によって、地獄を楽園にすることもできるし、楽園を地獄にすることもできると考えるのだ。実際、ポジティブに生きることは、計り知れないほど絶大な効果を生むことが証明されている。ポジティブな人がネガティブな人に対してどのような生物的優位性をもつのか、実際に見てみよう。

 

■寿命が15%(平均10年)長くなり、長生きする確率が70%上昇する。

■生存率が30%高く、がんリスクが15%、感染症リスクが50%低い。

■ポジティブな医師は、3倍の想像力と2倍の創造力を発揮し、2倍の速さで正確な診断ができる。ちなみに、この研究でポジティブな気持ちを得るために用意されたのは、「実験が終わったらキャンディの袋をもらえる」という約束のみであった。

■ポジティブなビジネスパーソンは、そうでないビジネスパーソンに比べて、60%近くも営業成績が良い。また、ミスの数が60%、トラブルが49%、欠席日数が67%少ない。

■朝ネガティブなニュースを見た人は、1日を振り返った際、ネガティブなニュースを見ていない人に比べて、「あまり良い1日ではなかった」と答える割合が27%多い。

 

なぜポジティブなパラダイムに、このような絶大過ぎる効果があるのだろうか。「○第一章 脳内物質への理解を深める」で得た知見は、その深い理解に一役買うだろう。つまり、「ポジティブに注目する」というパラダイムが、セロトニン、オキシトシンといった脳内物質の分泌とセットになるからだ。ポジティブな側面に注目するというプロセス自体、心身の健康が土台になければならないし、ポジティブな感情をもつ事象は、主に人とのつながりの中にある。加えて、そこに感謝が伴えば、エンドルフィンの分泌ももたらされる。これらの脳内物質による幸福感とセットで、様々な効果がもたらされるのはすでに述べた通りだ。もはや、ポジティブ・シンキングというパラダイムで、幸福感やパフォーマンスが高まらない科学的理由を探す方が不可能である。

 

自分のことをポジティブだと考えている人は、ここまで述べてきた幸福感やパフォーマンスの飛躍を実感しているであろう。ただ、自分のことをネガティブだと考えている人についても、全く問題はない。数分後には、あなたはポジティブ・シンキングというパラダイムを手にしているはずだ。

 

自分のことをネガティブだと考えている人は、「ネガティブな要素に対して敏感な人は、ポジティブな要素に対する感度も高い」というファクトに目を向けるべきだろう。「敏感な人は、鈍感な人よりも大きな喜びを得られる」という、脳科学的エビデンスも得られている。恐怖心と緊張状態が大きければ大きいほど、事後の快感も大きくなることは、「リバーサル理論」として証明されているのだ。つまり、自分や他者のネガティブな部分に注目しやすい人こそ、幸福感を上げる可能性をもつのである。「HSP(非常に感受性が高い敏感な人)」は全人口の20%いるというデータがあるが、それはむしろ、「感動のオキシトシンが常人よりずっと多く分泌される才能」なのだ。「ネガティブ」という性質を変える必要など全くない。自分をそのまま受容して肯定することで、「どうにでもなれ」という自暴自棄を避けることができるし、未来への希望も灯し続けられる。

 

「自分を責めてしまう」という悩みをもつ人もいるだろう。しかしながら、実はこのような人は、他者に責任を押しつける「他責思考」の人よりポジティブである。論理的には、「運のせいにする」というオプションを行使していないことから「自分は運が良い」と思っているし、運のせいにしないから創意工夫を追求して成長することができるのだ。むしろ自責的で悲観的だからこそ、最悪のケースを想定し、細かい部分まで準備することができる。それによって、「未来をコントロールできる」という非常にポジティブな感覚を手にすることができるのだ。

 

他責思考の場合は他者の責任にして終了であり、自分の成長にはつながらない。他責思考は楽な分、その依存性も高い。この思考を続けることによって、どこまでも自己防衛できてしまうし、ドーパミンの作用でそれが快楽化してしまうからだ。自分が成長できない(理想に程遠い)のは、「保有している財産の差のせい」「友人のせい」「教師のせい」「親のせい」「地域のせい」「国のせい」「時代のせい」などと、他責思考があれば、どこまでも自分が傷つかない理由を見つけ出せる。しかし、自分に責任を求めない人は、自己中心的な人物とみなされ、周囲の人も離れてしまうだろう。一方で、「もっと良くなるためにできたことは」「成功するために自分にできたことは」という自分の課題に目を向ける自責思考のスタンスで物事を考えていれば、仲間も全力でサポートしてくれたり、アドバイスをしたりしてくれるだろう。この思考は、実は自分の成長につながるばかりか、集団の質も劇的に向上する魔法なのだ。どのようなテーマについてでも、複数人で考えれば、そこに爆発的成果が生まれるのである。

  

ポジティブ・シンキングというパラダイムについて詳しく述べてきたが、ポジティブ・シンキングを生み出す具体的なメソッドについても述べておこう。代表的なものは、「リフレーミング(ポジティブな言語化)」である。言語化が伴えば、ポジティブ・シンキングの効果は爆発的に飛躍する。例えば、「やらないこと」リストを作成する場合でも、「アルコールを摂取しない」ではなく、「健康のために、日頃頑張ってくれている肝臓を休ませて、質の良い栄養を与えてあげる」などとすれば、「我慢(ネガティブなストレス)」を「実践(ポジティブなチャレンジ)」として捉え直すことができるだろう。

 

以下に、リフレーミングの実践例を多く挙げておく。ぜひ参考にしてほしい。

 

ネガティブをポジティブへ

ImpossibleIm possible

□臆病→慎重

□うるさい→活発

□音痴→常人とは違うメロディとリズムの中で生きている

□失業(恋)中→充電中

□悪筆→暗号製造

□優柔不断→思慮深い

□注意散漫→好奇心旺盛

□古くさい→ヴィンテージ

□嫌い→まだ魅力に気づいていないから教えて

□諦める→新たな道を発見する

□禁酒(禁煙)→肝臓(肺)のデトックス

□古典→価値が立証され続けている教訓

□憂鬱(緊張)→アドレナリンとノルアドレナリンの正常反応

□ヒマ→多くの時間をもっている

□曖昧→含みがある

□無表情→ポーカーフェイス

□印象が薄い→溶け込んでいる

□愛想がない→媚びを売らない

□変人→奇才

□反抗期→大人への階段

□話し下手→聞き上手

□レベルが低い→可能性に満ちている

□立ち入り禁止→農薬がつきます・クマ出没注意

□やめてくれ→いつものあなたと違うよ

□新しい発想がないね→経験を大事にしているね

□ミスするな→丁寧にいこう

□買ってください→投資してください

□出すのが遅れます→お時間をいただいて、良いものをお届けします

□○○に行け→○○は最高のパワースポットだよ

□どうせ無理→かなり難易度が高いけれど、もし実現できたら素晴らしいよね

□控えプレイヤーになってほしい→この業界に革命を起こさないか?

□やる気があるのか?→パフォーマンスが低いように見えるけれど、何かあった?

□今月中は無理→来月であれば喜んで

□何度も聞いた話だ→何度聞いても良い話だ

□言ってくれれば良かったのに→力になりたかった

□ちゃんと報告しろ→君の評価を上げたいから教えてね

□姿勢を正せ→凛として服が似合うね

□お姉ちゃん(お兄ちゃん)なんだから譲りなさい→強い方が優しくなろう

□いつまでも残って仕事したくない→自分の時間や家族の時間を大切にする姿を、子どもたちにも見せたい

□細かいことでいつも怒られる→基本的なことは万事OK

□今まで全部うまくいかなかった→今までの全部伏線!

 

ポジティブをよりポジティブへ

□おいしい→ほかの店がまずく感じるほどにおいしい

□おいしかったです→久しぶりにおいしいものをいただいた

□活躍しているね→みんなの手本になってもらいたい

□良いこと言うね→良いこと言うね、メモを取らせて

□素晴らしい天気だ→雨のことなんか思い出さない

□現品限り→人気商品につき最後の1つ

□発注してほしい→○○さんと一緒に仕事がしたい

□丁寧な指導→分かるまで何度でも質問可能

□2倍の大きさ→200%の大きさ

□そんなことないよ(謙遜)→そう言ってくれてありがとう(感謝)

 

現象としては同じ内容に対しても、工夫して楽しみながらやる人の成果・幸福感は脳科学的に倍以上になり、嫌がりながら我慢する人の成果や幸福感は脳科学的に半分以下になってしまう。そもそも、あらゆる学問が証明しているが、ヒトは何かをやるようにデザインされており、何かをやらないようにはデザインされていないのだ。

 

これまで述べてきたように、パラダイム・シフトをもってすれば、ネガティブと思われるマインドセットをも光り輝かせることができる。まずは自分の言葉から工夫してみてはどうだろうか。 

  

 

【イシューの吟味】

「イシュー」とは、「取り組むべき最重要課題」のことである。【仕事・生産性】の項で「やるかやらないか」の吟味を扱ったが、それもイシューの吟味である。イシューの吟味は、目の前のことをするかどうかに限らず、自分の人生そのものをどう生きるか(生きがい)という、最も大きなテーマの1つにおいても非常に有効である。大事なのは、以下の公式について理解しておくことだ。

 

「結果=才能(1〜100)×努力(1〜100)×イシュー(−100〜100)」

 

イシューだけがマイナスになり得るというこの数式は、例えば「100の才能を100の努力で、凶悪犯罪のために伸ばす」というケースを想定するとイメージしやすい。これは極端な例だが、実は取り組むべき最重要課題の設定を間違っているために、実現がなされない状況は多く存在する。 

 

■手段と目的の逆転

■正解がない課題の正解探し

■事実と解釈(意見)の混同

■練習のための練習

■勝てない相手への無謀な挑戦

 

このような場面に陥っている人を見聞きすることは少なくない。これらは、単刀直入に言えば「無意味」である。何かしら得るものがあるかもしれないが、それがトリガーとなって、さらに無意味さを助長する可能性の方が高い。

 

■手段と目的の逆転

→手段を使うことに注力してしまい、目的は全く達成されない。

 

■正解がない課題の正解探し

→全ての時間が無駄になり、本当に重要なことに使う時間がなくなる上に、大きな疲労が残る。

 

■事実と解釈(意見)の混同

→個人及び組織において、情報の誤認や思い込みが頻発してしまい、多種多様かつ重大なトラブルが連鎖的に引き起こされてしまう。

 

■練習のための練習

→プロセスを評価してしまい、極度の「結果より過程重視」になる。

 

■勝てない相手への無謀な挑戦

→レベルが違いすぎて収穫が不明確になる上に、再起不能なほどのダメージを負う可能性もある。

 

したがって、自分が取り組むイシューの設定がそもそも適切かどうか、吟味に吟味を重ねることが何より大切なのだ。イシューの設定を間違ってしまえば、「途方もない成果や時間の損失」につながってしまう。いつもの2倍努力したとしても、地図が間違っていれば、間違った場所に2倍の速度で着くだけだ。そして多くの人は、ハシゴをかけ違ったことに後から絶望する。補足すると、死ぬ前に人が感じる最大の後悔は、「もっと自分に正直になれば良かった」だという。

 

このような事態は絶対に避けたい。そのために、イシューを吟味する際のポイントを手厚く紹介しよう。そのためにまず、次に挙げるパラダイムを取り入れてほしい。

 

■適切なイシューは、「理想の姿を、抽象度を上げて思い描く」ことによって設定する。

 

理想の姿を思い描くことは、その最大にして最高のイシュー思考手段だ。特に、自分の人生におけるイシュー設定に関しては、超重要である。そして、理想の姿を思い描くのにこの上なく有効なのが、「抽象度を上げる」ことなのだ。

 

例えば、あなたが教育者だと仮定して考えてみよう。教育者として、次のような思いをもっているとしよう。

 

■学力を伸ばしてほしい。

■健康で過ごせるようになってほしい。

■家族や友達を大切にする人になってほしい。

 

このような子どもたちを育てられるかが、教育者としてのあなたの生き方が充実しているかどうかを測る材料になる。加えて言えば、「学力」「健康」「人間関係」の充実は、あなた自身が理想とする姿とも強くリンクするだろう。ここで、すぐにできる対応のみに注目し、抽象度が低いイシューを設定してしまうとどうなるだろう。例えば、次のようなイシューを、自分自身に設定してしまうかもしれない。

 

■多くの時間を投資して、徹底的に個別指導をする。

■詳細な健康チェックシートを毎日記入させ、保護者と連携する。

■家族や友人への手紙を書かせ、それをチェックして郵送する。

 

一見すると、熱意に溢れる行動に思える。しかしながら、先に挙げたイシューを全て、長期間に渡ってこなすことができるだろうか。体力も時間も足りないはずだ。あなたが限界になったとしたら、そのシステムによって支えられていた学力・健康・コミュニケーション力は著しく低下するだろう。他の誰かがシステムを引き継いだとしても、その人が倒れてしまうだけだ。そもそも、このシステムが永久に子どもたちを守ってくれるわけではない。人生のどこかの時点でシステムを失えば、子どもたちはどうして良いのか分からなくなってしまう。それでは、育てたい要素は1つも実現しない。イシューの吟味が全くできていなかったことで、むしろ最悪の結果がもたらされてしまうのだ。

 

おそらく、目的達成のために本当にすべきなのは、高く広い視点に立った、次のような取り組みだろう。

 

■学力を伸ばす理論やメソッドを教え、子どもたち自身に実践させる。

■心身の健康について理解を深めさせ、子どもたち自身が保護者と共に健康意識を高めるようにする。

■良い人間関係について必要な科学的知識を教え、フィードバックさせる。

 

ここで注目してほしいのは、「抽象度の高い適切なイシューは、自分にとって理想の人生の実現にも直結する」ということだ。

 

そもそもの話だが、子どもたちと長く接する教育者こそ、「余裕をもって人生を楽しんでいる姿」を見せるべきであり、断じて「無理して頑張っている姿」を見せるべきではないだろう。余裕をもってこそ、健康で、勉強に励み、良好な人間関係を築ける。自分の行動におけるイシューの「次元(メタ度)」を上げることができていれば、まず自分自身が理想とする姿を実現することができる。加えて言えば、子どもたちに何もかもしてあげるより、理論について深く納得させ、実践を重ねさせた方が、最終的には子どもたちの利益になるだろう。考え方や実践の経験は、決して奪われることのない財産になる。つまり、自分が理想の姿を実現できるばかりか、自分が実行している取り組みの効果も、飛躍的に向上するのだ。

 

では、あらゆるイシュー設定に共通する、適切なイシューを設定するための非常に重要な考え方についても述べておきたい。それは、そのイシューが、「何であり何でないか(どう在りたくてどう在りたくないか)」を明確に定義することだ。「何でないか」「何はやるべきでないか」が明確であれば、そのイシューはより鮮明で論理的になり、イシューに取り組む推進力は爆発的に増大する。あなたの責任・覚悟もずっと偉大になるだろう。取り組みを吟味する際に「絶対にやりたくないことから考える」ことは、多くの人にとってパラダイム・シフトであろう。

 

イシューを吟味することの重要性について論を進めてきたが、そうは言っても、イシューの吟味を自分の行動に反映させることは、大きな勇気を伴う。なぜなら、イシューの吟味を自分の行動に反映させることは、自分が設定したイシュー以外のことに「ノー」と言うことだからだ。ヒトがチームワークで生存してきたことを考えれば、「ノー」と言いにくいのは当然のことでもある。最後に、イシューの吟味を実際の行動に反映させるために、あなたの勇気を喚起するような言葉とデータを紹介しておく。これらの言葉とデータが、あなたを後押しすることになれば嬉しく思う。

 

■人生は常にトレードオフである。

■「何を諦めるか?」ではなく、「何に全力を注ぐか」である。

■「ノー」と言って数分間気まずくなる方が、「イエス」と言って数ヶ月後悔するより良い。

■優秀な人ほど、「ノー」と言う勇気のある人を評価し、賞賛する。

■最も大切なものを最も大切にするのが、最も大切なことである。

 

■本当に心から望む生きがい(人生のイシュー)をもつ人は、生きがいをもたない人に比べて、(他要因の影響を考慮しても)死亡リスクが5分の1になる。

 

 

【パラダイム・シフトの実現メソッドについて】

章の最後に、この項でパラダイム・シフトの実現メソッドについて見ていこう。ここでポイントとなるのは、2つのキーワードである。

 

「抽象度を上げる」ことと、「コントロール感を高める」ことだ。

 

まずは、「抽象度を上げる」ことについて見ていこう。抽象度を上げるということは、現象を俯瞰で見たり、高い視点で分析したりすることを指す。この過程は、広い意味で言えば「メタ認知」そのものだ。

 

抽象度を上げるというこの思考法は、物事の新たな括りに気づいてテーマに転用することにつながる。例えば、「成功」の反対は「失敗」と言われるが、この対極の2要素を同じ現象として括ればどうなるだろう。成功と失敗は「行動の結果で成長につながる」であると括れば、その対極に「何もしないことで停滞につながる」という括りを設定できる。この方法を使えば、「愛」と「憎悪」の対極に「無関心」や、「5億円の収入」と「5億円の借金」の対極に「お金に対する信用のなさ」という括りを新たに設定することができる。

 

抽象度を上げることは、思考上の大きな武器であり、新たなアイディアを生む強力メソッドになる。また、物事をメタ認知的に捉え、格段に高い抽象度で分析することは、どのような課題に優先で取り組むかを決める指針になり得る。抽象度が上がれば、ストレスを解消するどころか、そのストレスを一切受けつけないような人生のテーマを設定できる。逆にメタ視点がもてないと、問題の世界にどっぷりと浸かってしまい、その世界が全てのように錯覚してしまう。そもそもやるべきかどうか、どうやるべきかなど、高い視点での分析ができなくなるのだ。

 

次に、「コントロール感を高める」ことについて見てみよう。前述の通り、人間関係の悩みにおける他者の「気持ち」こそ、自分にとってコントロール感がないものの代名詞だ。ここで重要なのは、少し発想を変えてみることで、(あくまで場合によってだが)「他人の課題を自分の課題にする」というパラダイム・シフトを起こせるということである。

 

チームになかなか価値観の合わない人がいて、その人の意見がいつも気になってしまうとしよう。この人のおかげで、自分の意見が通らないし、プロジェクトが円滑に進まない。あなたは、「この人がもう少し他の人の意見を尊重してくれれば良いのに」「この人がもう少し発言を控えてくれれば良いのに」と思っている状況だ。しかしながら、相手があなたの意見にどう反応するかは、それこそ「他人の課題」である。もちろん、あなたが超能力者でもない限り、「コントロール感0」である。ここで、パラダイム・シフトを図るのだ。

 

あなたが困っているのは、自分の意見が通らないことと、それに伴うストレスだ。ここで、その解消のために、「今、私にできることは?」と課題を再設定してみよう。

 

例えば、「事前にその人に相談に行く」のはどうだろう。もしかしたら、あなたの意見が的を射ていないかもしれない。先に相談すれば、事前に新しいマインドやメソッドを教えてもらえるだろうし、あなたの意見は「反対意見への対処」まで含んだ説得力抜群なものにブラッシュアップされるかもしれない。事前の相談自体は、ほぼ「コントロール感100」ではなかろうか。その人に相談しにくければ、「過去に指摘された内容を整理して対策する」のはどうだろう。「他の人に意見をもらい、想定問答を考えておく」のはどうだろうか。いずれも「コントロール感100」であろうし、ただ相手の反応を気にし続けて何もしないよりはずっと良いだろう。自分自身の成長にもつながるはずだ。

 

つまり、「他人の課題」を「自分の課題」に捉え直してみれば、コントロール感は大きく高まるのだ。しかも、勇気をもって行動した場合、自分の大きな成長につながる。しかも、「自分の課題」に伴う行動には、大きな感謝が絶えず付随する。つまり、課題の捉え直しは、最強の幸福物質であるエンドルフィンの分泌につながるのだ。課題の再設定をしない理由は、全く見つけることができない。

 

もちろん、「自分の課題」と捉え直したからこそ、「今自分がすべきは、ここから全力で逃げること」という結論が導かれることもあるだろう。(人間関係が絡んだ)不当な状況、「コントロール感0」の状況については、頑張れば頑張るほど闇が深くなる。課題の再設定をできるならば、判断力はまだ正常だ。「全力で逃げる」という判断が出たならば、自信をもって逃げよう。そうしなければ、「やりがい搾取」や「ストックホルム症候群」のような状況になりかねない。このポイントについては、頭に入れておいてほしい。

 

これまで述べてきたように、パラダイム・シフトを実現するためには、「可能を不可能と思い込まない」ことが大切だ。「不可能を可能にするより、可能を不可能と思い込まない」ことが重要なのである。そしてそれは、抽象度を上げたり、コントロール感を高めたりすることによって、多くの人が体感できるはずだ。逃げるという選択も、不可能ではなく可能なことであろう。

 

なお、この章の冒頭でも述べたが、「以前のパラダイムがあるからこそ、新しいパラダイムがより威力を発揮するし、違った立場の人へのかかわりも効果的になる」ことは常に意識しておいてほしい。以前の自分(「抽象度が低かった自分」「『他人の課題』でクヨクヨしていた自分」)を恥じることは決してない。その自分があるからこそ、新しいパラダイムへの理解も深まるのだ。あなたが究極のポジティブ・シンキングを手に入れており、この話を蛇足だと感じていることを願う。

 

 

 

○第八章 「アウトプット」を積み重ね、幸福感を無限に大きくする

「アウトプット」とは、表現全般を指す言葉だ。非常に広い概念の言葉である。この章では、このアウトプットという行動について扱いたい。なぜ、ここまでアウトプットを特別視するのかという理由については、後述の「【アウトプットバース】〈生命は、そして私たち人間はなぜ存在するのか〉」を参照してほしい。アウトプットが、ヒトの幸福感という次元を超越した幸福感につながっていることについて、論理的に納得できるはずだ。では、そのアウトプットが、人に大きな幸福感をもたらすのはなぜなのだろうか。

 

それは、「アウトプットは感謝につながる行動」だからだ。

 

話すことも書くことも、本質的には「与える」行為だ。素晴らしいアウトプットができれば、相手や周囲からの感謝がもたらされる。また、そのアウトプット自体が、多くのサポートで支えられていることも見逃せない。本の著者やアーティストが、必ず最後に謝辞を述べるのは、その明確な理由とも言えよう。さらに言えば、素晴らしいアウトプットは、「文字」という人類最大の発明によって、時間を越えて残り続ける。この場合、アウトプットした人が死んでも、感謝が永久に発生し続ける。感謝とそれに伴う幸福感が、未来永劫、無限に輝くための唯一の手段が、アウトプットなのである。

 

わざわざアウトプットの章を設ける意味を、より理解してもらえたのではなかろうか。アウトプットには他にも、幸福感を高める絶大な数々の効果がある。いくつかの項に分けて、アウトプットについて詳しく見ていこう。

 

【自己実現の手段として】

誇張なく、(アウトプットに伴う)言葉は、自己実現に直結する。言葉は潜在意識に直接作用するという。広く知られているように、「人間の決断の割合は、顕在意識が3%(1%以下とも)で、潜在意識が97%(99%以上とも)」である。驚くべきことに言葉は、この潜在意識に、「『善悪』の区別なく」「過去・現在・未来という時間の区別なく」「『自分と他者』の区別なく(主語を認識することなく)」訴えかけるという性質をもつ。つまり、「他者に対してか自分に対してかに関わらず、自分がアウトプットした全ての言葉が、自分の人生に反映される」ということだ。

 

「夢を叶えるのは、流れ星にお願いできる人」と言われる。流れ星を見た瞬間に願い事をアウトプットできる人は、理想の自分をイメージし、明確に言語化できる人だからだ。対象に関することを常にポジティブな言葉で言語化し、潜在意識にまで落とし込むことで、「夢の実現に必要な要素が見えている」とも言えるだろう。このことは、「引き寄せの法則」や「観念運動現象」についても同様である。そこに「RAS」の働きなど、科学的根拠が伴うのは想像の通りだ。「思考は現実化する」も真実だが、アウトプットによって「言葉は現実化する」のもまた、あまりに明確な真実なのだ。

 

 

【ストレス解消の手段として】

先に、「悩みを話せば、その悩みは自分から離せる」と述べた。アウトプットによる言語化は、実はストレス解消手段としてもあまりに優秀だ。言語化できた時点で、それは客観的に分析可能、かつ「自分の課題」に落とし込むことが可能なタスクになる。言語化できれば、悩みの90%は解決している。データとしては、ポジティブなアウトプットをネガティブなアウトプットの3倍(「ロサダライン」)以上にすれば、幸福感を得やすいという。より幸福感を得たければ、さらにその倍を意識するのが理想的である。

 

人は、自分に起こった出来事を認識する際、自分で「反事実」のストーリーを創り出し、それと現実を比較することで、全体的な印象を捉えようとする。その印象を説明する際の傾向(「説明スタイル」)」こそが、将来の成功や幸福度に決定的な影響を与える。楽観的な説明スタイルをもつポジティブなビジネスパーソンは、悲観的な説明スタイルしかもたないネガティブなビジネスパーソンより、90%も高い成果を出すという。つまり、意識的に「ポジティブなアウトプットになるように」思考・判断・表現することが、ストレスを解消し、幸福感を得る最速で最短のメソッドと言えるのだ。

 

アウトプットによるストレスの解消は、コミュニケーションにおいて応用できる。他者に情報を伝える際は、全く知識のない人(例えば子どもたち)にも伝わるように言葉や構成を吟味し、表現することが大切だろう。「分からない」ということは、誰にとっても大きな不安でありストレスだからだ。

 

 

【より良い学習メソッドとして】

学習においても、アウトプットという方法はあまりに有効だ。データや理論を見てみよう。

 

■ラーニング・ピラミッドによると、人に教えることが前提の学習では、講義的学習より記憶力が上昇(5%→90%強)し、記憶量は100倍になる。(「プロテジェ効果」)

■能動的なタッチは、受動的なタッチの10倍の脳反応を示す。

■(種の生存・繁栄の観点から)アウトプットを前提にヒトは言語や知識を会得しており、アウトプット前提で学習するのは進化論的にも理にかなう。

 

ここから分かるのは、「アウトプット前提のインプットは学習効果が大きく飛躍する」というファクトだ。「質問」というアウトプットを前提に聞く、アウトプットのために(30秒以内に)メモをするなどの行動は、記憶の定着や理解の深化、応用に著しく寄与し、「知的生産性」「情報獲得の精度」「傾聴能力」「構造化能力」「言語化能力」などを大きく向上させる。そのようにして、自分が分かるレベルではなく、「他者に説明できるレベル」にまで深く聞いたり読んだりすることで、圧倒的な学習成果を実現できる。「読むのは書くため」であり、「聞くのは話すため」であり、「見るのは創るため」なのである。

 

 

【他者とのコミュニケーションにおけるアウトプット】

アウトプットが他者に向けられたものであることを考えれば、アウトプット力の向上がコミュニケーション・スキルの成長につながるのは当然だと捉えられる。ここでポイントになるのは、「安心感」だ。誰もが、コミュニケーションに「安心」を求める。これはマズローの欲求階層構造でも土台として位置づけられており、ヒトとして理にかなっている。「心理的安全性の高い集団では、ミスの報告がより多くなったが、ミスの頻度はより少なくなった」という研究結果もあるほどに、安心感は非常に大切である。理想を突き詰めるのならば、「相互全肯定」とでも言うべきコミュニケーションを会得したいものだ。

 

人間関係のトラブルの多くは、「言葉の定義が双方で違っている」という理由で起こることが多い。これも、「言葉が共通認識されていないことで、安心感が欠如している」という理由で説明できる。双方のアウトプットが有効に機能し、円滑なコミュニケーションがなされるために、まずは言葉の定義を確認し、お互いが安心感を得られるようにすると良いだろう。

 

具体的な言葉についても述べておこう。まずは注意すべき言葉について述べておきたい。代表的なのは、「それ知っている!」という言葉だ。人は得てして、自分の話を聞いてもらいたいもので、相手に会話のターンを回したくはない。似たような理由で、「でも」という逆接も極力避けたいものである。また、使い方によって大きな効果を生む言葉もある。例えば、「やっぱり」という言葉は、ポジティブな話題においてもネガティブな話題においても、「普段からそう思っていた」というニュアンスを伝える。つぶやくように言われることで、その効果は一層二層高まる。そのようなポイントを加味して、できるだけポジティブな話題でこの言葉を使いたいものである。 

 

最後に、コミュニケーション・スキルとしてのアウトプットについて、最も重要な点を示しておこう。「より良いコミュニケーションの要素とは、『自分がどれだけしゃべるか』ではなく、『どれだけ相手にしゃべらせるか』である」ということだ。実際、話し方に関する名著の70%以上が、「傾聴(アクティブ・リスニング)」を最優先事項として扱っている。特に、「否定しない」「比較しない」「自分の話をしない」という3要素は、多くの名著で頻出する重要事項だ。話し手は、聞き手の包容力の中でしか語ってくれないものである。逆に熱心に話を聞いてくれれば、「この人は誠実だ」という感覚さえ抱いてくれ、さらに多くを語ってくれる。加えて、相手の行動と同じような行動をする「ミラーリング」が、多くの名著で、共感・好意を示す最も有効な手段の1つとして扱われているのも注目すべきポイントだ。人は究極的には自分のことが最も好きである。自分と似た人や似た行動をする人に、ヒトとして好意を寄せてしまうのである。

 

話をじっくりと傾聴した上で、もし質問をする場合には、「相手に自分の思考の足跡が見える」ことを意識すると良い。「オウム返しではなく、キーワード化して受け取ってくれている」「こういうところまで深く考えてくれて、こんなに素晴らしい質問をくれたのか」「過去に自分が言った内容まで調べてくれたのか」といった気持ちにさせることができれば最高だ。

 

傾聴は、実は非常に創造的な行為である。聞き手によって相手のアウトプットはまるで変わってくるからだ。そう考えれば、「話すのが上手ですね。」に対する最高の返答は、「素晴らしい聞き手でいてくれてありがとう。」であろう。聞くことさえも、パラダイム・シフトをもってすればアウトプットなのだ。

 

 

【スピーチ・プレゼンテーション・ビジネスシーンにおけるアウトプット】

スピーチ・プレゼンテーション・ビジネスシーンにおけるアウトプットも見てみよう。この項は話が多岐に渡るので、重要なマインドセットやメソッドの数々を、紹介という意味で列挙していこうと思う。

 

■スピーチやプレゼンをする際の、基礎的で最大のポイントは、「(その状況での「結論」の定義を、相手と確認した上で)結論を出す」「結論を理由で支える」「理由を根拠で支える」「自分の『体感』レビューを入れる」である。特に体感は、「その人にしか語れない」という圧倒的なオリジナリティを付加する。共感を呼ぶ「失敗からの成功談」は、なお効果的であろう。

 

■本当に有効なアウトプットとは、自分の伝えたい内容を、「相手の世界にあるもの、相手の世界にある言葉」の組み合わせに変換した上で、根拠あるベネフィットとして伝えることである。そうすれば、自分の伝えたい内容は、相手の思考そのものになる。相手から「自分の思考」としてプレゼンされたならば、頭でも心でもその提案の賛同者にならざるを得ない。

 

■素晴らしいプレゼンの順序として、「現在の悪夢の指摘」「未来の夢(希望)の示唆」「そのギャップの強調」という3ステップが挙げられる。未来の夢を語るために、現在の悪夢をありありと描くのだ。深くマイナスの谷を掘り、高くプラスの山を築くことで、そのアップダウンを強烈に強調し、激烈に印象づけることが可能になる。

 

■真に戦略的なプレゼンとは、「他との違いが明確なストーリーでつながっていること」である。特に、一見して非合理な要素が、全体のストーリーの中で見事な論理性をもつ場合に、その戦略は決して真似されない名作となり得る。優れた戦略は、思わず人に話したくなるストーリーの中にある。プレゼンの担当者こそ、そのストーリーを心から楽しんでアウトプットするように意識するべきだろう。

 

■アウトプットの際、関連する情報は包み隠さず誠実に与えることが大切だ。それにより、相手は警戒心を解いてくれ、「この人は誠実だ」と思ってくれる。「信頼できる人の話」が、自分の決定を正当化する要素にもなり得るのである。

 

■「メラビアンの法則」によると、相手に伝わる情報は視覚情報55%、聴覚情報38%、言語情報7%である。画像があれば、文字だけの場合より6倍以上記憶に残るという。ノンバーバル(非言語)・コミュニケーションは非常に大切なのだ。

 

■異なる2つの内容を相手に伝える際、多くの場合で後に置かれた内容が強い印象を残す。また、情報が複数になる場合、最初と最後の情報が特に印象に残りやすい(「初頭効果」「親近効果」による「系列位置効果」)と言われる。

 

■自分の主張を強烈に印象づけるためには、伝えたい内容を表現する言葉の「対義語」を巧みに活用することが有効である。例えば、「晴れ」を強調するために「雨のことなんか忘れる」と表現するなどだ。他にも、「おいしい」を「他の店は(まずくて)食べられなくなる」と言い換えたり、「好き」を「嫌いになれない」と伝えたり、「幸せになる」を「不幸になれなくなる」と表現したりするといった創意工夫も好例であろう。

 

■「確かに○○という意見もある。しかし、○○だ。(+むしろ○○だ。)」というフレーズは、「あなたが抱くだろう反論は分かっていますよ。そういう考えをもってくれてありがとうございます。そういう点も含めてこうなのですよ。」という圧倒的な説得力を生む。

 

■相手の言葉を踏まえての論理的な反論は、絶大過ぎる効果を生む。格闘技における「カウンター」が、「自分の攻撃力+相手の防御力の低下」によって最強の必殺技化するのと同様である。

 

■「あなたの力や可能性を信じています。その上で」という前置きによって、相手が指摘を肯定的に受け入れてくれる可能性が40%アップする。

 

■「理由は3つあります。」というフレーズを効果的に使うことで、主張の通りやすさは2.5倍も上昇するという。ただでさえ圧倒的な成果を生み出す偉大な名アウトプッターほど、このメソッドを用いている。

 

■説得力の強い主張をする際に、非常に重要となる要素は、自分の主張が「『なぜ正しいか』ではなく『なぜ間違っているかもしれないか』を吟味すること」「反対意見が正しかったらどうなるかを吟味すること」である。これにより、強力な「確証バイアス」から逃れ、自分の主張を客観的に分析してブラッシュアップできるかもしれない。

 

■印象的なプレゼンにおいては、形容詞や副詞が数字化されている。「世界共通言語は数字」だ。

 

■リーダーとしてのスピーチに臨む際は、スピーチの前に、周囲がしてくれたサポートをリスト化しよう。相手の立場や役職上のサポートだけでなく、さらに踏み込んだ個々のサポートに言及できれば、より素晴らしい。これは「謙虚」であるとかいう問題ではなく、単に「真実」へのフォーカスである。感謝すべき対象を想起し、どのようにアウトプットするかを吟味することは、リーダーとして何よりも大切な要素だ。加えて、「私」ではなく「私たち」という主語を用いることも大切であろう。これにより、あなたのスピーチは、感謝のエンドルフィンに溢れる、恍惚感・多幸感を伴った魔法のアウトプットになるはずだ。

 

■当然だが、アウトプットは要点を押さえることが大切で、説明が長ければ良いというものではない。「今日は時間がなかったから手紙が長くなって申し訳ない」とは言い得て妙である。

 

■スピーチや作文においては、テーマに合わせるための「うまい」エピソードを複数もつより、様々なテーマに合わせられる「強い」エピソードをもち、それを洗練させていく方が良い。例えば、後述の「【アウトプットバース】〈「やらないこと」と「できないこと」の違い〉」は、「どんな大人になりたいか」「自分が大切にしていることは何か」「将来の夢は何か」「印象的な体験は何か」「過去の経験から学んだことは何か」「あなたのモットーは何か」などの非常に幅広いテーマをカバーする。このエピソードに話を移行できた瞬間に、スピーチでも作文でも、勝利は確定するのだ。加えて同じエピソードも使い続ければ、その伝え方・書き方も円熟味を増してくる。

 

 

【アウトプットバース】

この項では「アウトプットバース」と題して、私のスピーチ原稿を紹介する。これらのアウトプットには、私自身の価値観や哲学、パラダイムが非常に色濃く反映されている。一読してもらえれば幸いである。

 

〈「やらないこと」と「できないこと」の違い〉

〈名言集〉

〈より味わい深い人生とは〉

〈「シンギュラリティ」に向けて〉

〈生命は、そして私たち人間はなぜ存在するのか〉

〈ショート・トーク集〉

〈言葉とは「『比較』システム」である〉

〈未来を切り拓く子どもたちへ〉

〈無限のパラダイム〉

〈史上最も偉大なパラダイム・アウトプット〉

 

アウトプットバース 詳細へ

 

 

 

○おわりに

これまで「シン・幸福論」について、様々な観点から論を進めてきた。最後に、幸福感に関して、最も大切な要素を示しておきたい。

 

「『比較』によってのみ、幸福が認識される。」

 

これは、幸福のみならず、この世界のありとあらゆるもの全てにおいて該当する。あくまでも、この世界の大原則・根本原理は「比較」である。比較が「PRINCIPLE G.O.A.T.(Greatest Of All Time)」だ。

 

実存・概念(観念)問わず、ありとあらゆる「もの」は全て、他のものとの比較によってのみ差異として認識され、表面化する。ヒトの脳は、異質な差分を優先して情報処理するようにシステム化されているのだ。したがって、「より幸福になった」という実感を得るためには、「これまでの自分」「これまでの家族」「これまでのチーム」「これまでのコミュニティ」「これまでの国家」「これまでの世界」・・・というものとの比較を経なければならない。比較がなければ、現在どれほど幸福になったか分からない。そもそも、幸福という概念が全く分からないだろう。未来の幸福に対する希望など、全くもって創造されないはずだ。

 

「自分の努力や創意工夫によって、新たに知識や能力を身につけ、成長や進化を実現したからこそ、大きな幸福感が生まれる。」

 

これが真実である。試行錯誤・紆余曲折があればあるほど、それを乗り越えた幸福感は大きい。努力や創意工夫を伴った幸福感は、最初から与えられた幸福感よりも、遥かに偉大である。

  

■闇が深いほど、光が強く大きく輝く。

■死を意識するほど、生が強く輝く。

■滅亡を危惧するほど、栄華が際限なく偉大な輝きに感じられる。

 

これらは、嘘偽りのない真理なのだ。人生には得てして苦難の方が多い。だから、パラダイム・シフトを実現して、それらの苦難にも感謝してみよう。過去の経験、それにかかわる「人」「モノ」「コト」などのありとあらゆるものに感謝しよう。未来に起こる試練にも、それにかかわるありとあらゆるものにも感謝しよう。そして、「比較できる」という事実そのものにも感謝しよう。

 

これまで長らく、様々な理論やメソッドを述べてきた。最後までお付き合いいただいたことにも、このアウトプットのアイディアを与えてくれた全ての人と経験にも、本当に感謝している。

 

さて、あなたは何から始めるだろうか。どれが不正解でも正解でもない。始めやすいものから、あるいはチャレンジしたいものから取り組んでほしい。間違いなく言えるのは、「自分で決めてこそ、責任と覚悟が生まれる」ということだ。そして、「責任と覚悟をもつからこそ、偉大な幸福感を得られる」ということだ。

 

さて、準備ができただろうか。あなたの可能性は、あなたの決断によって輝くのを待っている。

 

さあ、共に踏み出そう。

 

 

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